日経メディカルのロゴ画像

誤嚥性肺炎の「退院」って何だろう?
「退院がゴール」ではないことを忘れないで

2018/12/14

(イラスト:池田八恵子)

 「誤嚥性肺炎の患者さんは、どうなれば帰れるんですか」。患者さんを一緒に担当してくれている看護学生さんに先日、こう聞かれました。透き通ったその眼差しに、しばらく答えが出ませんでした。

 誤嚥性肺炎の診療が一筋縄ではいかないことを、若い彼女は既に肌で感じていたのでしょう。抗菌薬が終了できたら退院? でも、すぐに再発するかもしれません。食事を十分摂取できれば退院? けれど長い間、点滴が必要かもしれません。そもそも「十分」というのは誰が決めるのでしょう? 本当に元の場所へ帰れるのでしょうか? ……疑問は尽きません。

 患者さんに配慮して、個別に検討していると言えば、聞こえはよいかもしれません。あるいは急性期病院から自宅退院までを自分たちで見届けることができたら、医療者として満足感があるかもしれません。転院や退院の話題を持ち出すにはどこか後ろめたさを伴い、患者さんも追い出されると感じることが少なくありません。けれど、急性期病院で全てを診ることは物理的に難しいだけではなく、患者さんに不利益なことも多いのです。貴重な医療資源を効果的に活用できるように、まずは我々医療者が互いの専門性を理解しあい、連携を強化することが大切です。

 これから厚生労働省の考えのもと、急性期病院は超急性期を担う機関と亜急性期を受け持つ機関に分かれていきます。超急性期病院は在院日数をこれまで以上に減らすことを求められるため、誤嚥性肺炎については後方病院への早期転院も含めたクリニカルパスを既に導入している病院もあります。このため、これまでは治療から急性期リハビリテーションの約14日間を急性期病院で担ってきたわけですが、今後は嚥下評価や食事調整の役割が後方病院へと移っていくでしょう。

 超急性期病院では短い入院期間に、やるべきことが凝縮されます。例えば、誤嚥の原因疾患が隠れていないか、とことん追及すること(当科に入院した誤嚥性肺炎例のうち約5%で、パーキンソン病や新規脳卒中、咽頭癌など、誤嚥の原因となる疾患が当科入院後に見つかっています)。初期治療を軌道に乗せること。転院までに全身状態が悪化しないよう、早期離床、早期からの栄養管理に努めること。とろみ水やゼリーだけでもいいから、経口摂取を継続すること。超急性期と同じ治療が、そしてよりよい嚥下評価やリハビリが後方病院で行えることを患者さんやご家族に保証すること。今後とりうる経過や必要になるかもしれない決断について、共有しておくこと。後方病院に対して、相手の立場できちんと情報共有を図ること(社会背景や患者さん・ご家族の意向も伝達する大切さを回復期病院で痛感しました)。

 クリニカルパスという制度に甘んじず、より短期間で専門家としての役割を果たすことを求められている事実を真摯にとらえ、主治医として全力を尽くすことを忘れてはいけません。

著者プロフィール

吉松 由貴(よしまつ ゆき)氏。2011年大阪大学卒。淀川キリスト教病院での初期研修、同院呼吸器内科での後期研修を経て、現職は飯塚病院呼吸器内科勤務。現職の間、浜松市リハビリテーション病院と聖隷浜松病院で嚥下リハビリテーションに関して国内留学。

連載の紹介

吉松由貴の「誤嚥性肺炎、診療の知恵袋」
誤嚥性肺炎は、すんなりと治る病気ではありません。繰り返したり、命に関わることも多いのです。そんな誤嚥性肺炎の診療に、若手医師が日々どのような姿勢で挑んでいるのかを具体例を交えながらつづります。

この記事を読んでいる人におすすめ