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第1回 痛みをうまく表現できずBPSDを生じているケースも
「認知症患者は痛くない」は大きな誤解

2019/02/12
小川朝生(国立がん研究センター先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野長)

 「『BPSD(認知症の行動・心理症状、behavioral and psychological symptoms of dementia)』って、言い方は変わっても結局『問題行動』でしょう。教科書には非薬物療法って書いてあるけれども、病棟は介護施設ではないし、看護スタッフも忙しい。結局薬で対応するしかないのでは?」

 急性期医療での認知症対応について解説をしていると、しばしばこのような質問を受けます。

 高齢者の増加に伴い、急性期医療においても認知症対応が求められるようになりました。認知症対応というと、「認知症は分からない」とか「難しい」という感想をしばしば耳にします。特にBPSDは、暴言や暴力を伴うことが多く、ケアなどが難しくなり、医療者や家族との信頼関係を崩し、療養生活の質を著しく落とすリスクの高い状態です。その出現頻度が高いことから、一般診療においても対応しなければなりません。ですが、実際にどのように対応するのがよいのか、その情報が乏しいのも事実です。

 BPSDの背景には認知症の中核症状があり、その適応力低下のために生じた付随症状であることから、非薬物療法が第一選択といわれます。しかし、解説書では、非薬物療法について一通り触れるものの、多くは薬物療法にページが割かれています。恐らく、非薬物療法が重要ではあるものの、実際にどのように考え対応すればよいのか、説明するのが難しいのだと思われます。

 私は癌の専門施設で、身体治療中の精神症状への対応を行っています(コンサルテーション・リエゾン精神医学)。最近では、認知症を持ちつつ、癌治療に取り組む患者も多くなってきたことから、BPSDへの対応についても相談を受ける機会が増えました。その中で、「BPSD=問題行動」や「BPSD=対人関係の問題」と誤解され、BPSDにうまく対応できないため、患者も医療者も疲弊している場面を見ることが何度もありました。

 BPSDにうまく対応できない背景には、疾患や治療に関連した「苦痛」を認知症患者がうまく表現できず、BPSDを生じている「苦痛」を取り除くという根治的な対応ではなく、BPSD、すなわち行動心理症状に対症的な治療しかできないからだと思うのです。

 この連載では、主に身体疾患の治療場面を中心に、BPSDが疑われる場面で、身体症状や薬物が関係していることがしばしばあることを紹介しつつ、その原因にアプローチすることで、BPSDをコントロールする方法を紹介していきたいと思います。

著者プロフィール

小川朝生(国立がん研究センター先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野長)●おがわあさお氏。1999年大阪大学卒。国立病院機構大阪医療センターなどを経て、2013年に東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発分野長、2015年より現職。

連載の紹介

意外と簡単!認知症に伴うBPSD解決策
認知症に伴うBPSD(行動・心理症状)と診断したその症状、もしかしたら痛みや空腹などが原因で生じているのかもしれません。BPSDに対して薬物療法を行う前に確認すべき身体的な問題とその解決策を、ケースとともに国立がん研究センター東病院の小川朝生氏が解説します。

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