【今回の相談事例】
癌で入院した高齢の患者が死亡しました。長い闘病の間、通院の際や入院中のベッドの傍らには、いつも少し控えな感じの、患者よりはやや若いものの、それでも歳のいった女性が付き添っていました。死亡すると、患者の妻とおぼしき人と子供たちが立ち替わり来て、その女性の姿は見られなくなりました。その後、2カ月ほどして、その女性が病院に来ました。生命保険用の死亡診断書を書いてほしいとのことです。しかし、その女性は妻ではなく、親族関係にもなく、相続人の同意書は取っていません。診断書を交付するかどうか迷っています。
(相談者:私立病院・事務長)
【回答】
これは現実にあった事例です。以下のような悩ましい問題がありましたが、この病院は最終的には死亡診断書を交付しました。相続人からは、「交付に承諾していない」との若干のクレームはありましたが、病院の説明により収まりました。
死者の個人情報の取り扱いにも要注意は
個人情報保護法は死者の情報は対象としていません。しかし、個人情報は、同法のみならず、憲法やプライバシー権の関連で問題になりますから、当然、同法に定めがないからといって自由に取り扱えるものではありません。厚生労働省の個人情報に関するガイドラインでも、死者の個人情報の適切な管理が求められており、遺族「等」の同意を得ずに開示、提供することを原則的に禁じています。この原則に沿わなければ、場合によっては損害賠償の対象やクレームの対象になりかねません。
この「遺族」が誰であるかが問題になります。ガイドラインでは「相続人」とはされておらず、「遺族」となっています。したがって、患者については「家族」が誰であるか、「開示する情報」が何であるかが問題となりますが、それと同様に死亡した患者の個人情報の取り扱いについては「遺族」が誰であるか、「開示する情報が何であるか」(この場合は死亡診断書)という、ケースバイケースの問題になります(詳細は、厚労省や日本医師会のガイドラインがインターネット上に掲載されていますので参考にしてください)。
また死亡した患者といえども、生前に死後の自分の情報をコントロールすることはできます。この相談事例でも、生前に「この女性に自分の情報を開示してよい」という同意や指示があれば全く問題はなかったわけです。しかし、そんな同意をあらかじめ明示しているケースは希有の例かと思われます。このケースでも、付き添っていたのは控えめな女性であったこともあり、同意書・指示書はありませんでした。
病院が死亡診断書を交付した理由
控えめな女性であったから、病院はパターナリズムを発揮して、死亡した患者のことを思い、死亡診断書を交付したと考える人は熱血漢だといっていいでしょう。しかし、病院は冷静に判断しました。こう考えたのです。
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著者プロフィール
HDLA研究会●HDLA研究会は、医事紛争に関して医療機関側の代理人を務める弁護士で組織。会員は約100人で、各種勉強会を開催するほか、会員相互の情報交換を行っている。

連載の紹介
ケースに学ぶトラブル対策講座
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