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《第9回》
冷え症の診かたと方剤の選び方(後編)

2009/01/21
淺羽 宏一

 今回は「高齢男性の冷え」と「若い女性の冷え」について、症例を提示して説明します。漢方講座第9回「冷えの診かたと方剤の選び方」前編はこちらです。

【症例3 高齢男性の冷え】
 患者さんは68歳の男性です。足の冷えを主訴に、○年2月に来院しました。特に既往歴はなく、2カ月前ころから、足が冷たくて困る、特に夜寝る時、靴下を2枚履き、さらに足元に湯たんぽを入れているが、全く足が温まらないので寝付けないと訴えています。足の冷え以外は全く問題ないとのこと。診察所見も、腹部診察で下腹部を指で押したときの抵抗感が減少している(小腹不仁)以外に特に問題ありませんでした。身長 172cm、体重 68kgと中肉中背です。

 この患者さんでは、加齢に伴う様々なホルモン作用の低下によって熱産生の低下末梢循環不全が生じ、それによって足の冷えが生じている(腎虚)と考えました。その根拠は、男性高年齢者であることと、下腹部の筋力低下(小腹不仁)です。下腹部筋力低下は、男性ホルモン成長ホルモンなどの低下による、骨盤周囲インナーマッスル筋萎縮筋力低下が原因と考えられます。西洋医学的に考えれば、ホルモン補充療法を行うという発想になりますが、高価な上、前立腺癌リスク上昇などの心配もあります。

 そこで、このような患者さんによく処方する八味地黄丸はちみじおうがんツムラTJ-7)を日量3パック(分3)で処方しました。八味地黄丸には山薬構成生薬として入っていますが、山薬には男性ホルモン様活性のある物質が含まれていますので、漢方によるホルモン補充療法といった感じになります。

 臨床経過ですが、治療開始2週間後には、足が少し温かく感じるようになったとのこと。さらに4週間処方したところ、湯たんぽを使わなくて済むようになりました。さらに4週間処方したところ、靴下を履かなくても眠ることができ、掛け布団から足を出しても寝られるようになったとのこと。ただし、既に5月になっていたので気候の影響もあったかもしれません。その後、この患者さんは来院していませんので経過は分かりませんが、きっと元気なことでしょう。

 もしこの患者さんに足のしびれがあった場合は、八味地黄丸の類似処方である牛車腎気丸ごしゃじんきがん)を処方していたでしょう。また、むくみがあったり活気がない印象がある場合は、水代謝を改善して新陳代謝を高めるため、真武湯を追加して、八味地黄丸+真武湯または牛車腎気丸+真武湯を処方します。
なお、八味地黄丸を処方していて経過中に胃腸障害が出現したときは、八味地黄丸の構成生薬である地黄の副作用と考え、方剤を変更する必要があります。

著者プロフィール

浅羽 宏一(高知大学医学部附属病院総合診療部)●あさば こういち氏。1992年高知医科大学(現高知大学)卒。同年同大学第二内科入局。04年高知県立安芸病院内科医長を経て、06年4月から現職。

連載の紹介

【臨床講座】日常診療に漢方を使う
日常診療でよくみかける不定愁訴に対し、漢方が最適な選択肢であることがしばしばあります。高知大学附属病院総合診療科の診療方針を基に、プライマリケアの現場で役立つポイントを紹介します。

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