人工股関節全置換術(THR)を受けた患者は、術後2週間の急性心筋梗塞(AMI)発生リスクが手術を受けなかった患者の約25倍、人工膝関節全置換術(TKR)においても約31倍になることが、オランダUtrecht大学のArief Lalmohamed氏らが行った大規模コホート研究で明らかになった。論文は、Arch Intern Med誌電子版に2012年7月23日に掲載された。
THRまたはTKRの周術期に発生しうる重要な合併症の1つが、AMIだ。これまで、THRまたはTKRを受けた患者のAMIリスクを、これらの手術を受けていない対照群と比較した研究はなかった。そこで著者らは、デンマークの国家登録を利用して、後ろ向きコホート研究を実施した。
1998年1月1日から2007年12月31日までに、初回THRまたは初回TKRを受けた18歳以上のすべての患者(9万5227人)を選出。次に、年齢、性別、居住地域がマッチする、THR/TKR歴のないコントロール(対照群)を、患者1人当たり3人ずつ選んだ。全員を、死亡、転出、THR/TKRの再施行、AMI発症または試験終了(2007年12月31日)のいずれか最短時点まで追跡し、AMIリスク上昇をもたらす可能性がある疾患の既往や治療薬使用歴で調整してハザード比を求めた。
危険因子と交絡因子の候補として、年齢、性別、社会経済的地位、THR/TKRの適応、AMI歴、その他の虚血性心疾患の既往、心不全歴、脳血管疾患歴に加え、6カ月以内の以下の薬剤の処方歴を調べた:β遮断薬、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬、サイアザイド系利尿薬、カルシウム拮抗薬、硝酸薬、スタチン、非選択的NSAIDs(高用量アスピリンも含む)、Cox-2選択的阻害薬、抗血小板薬、ビタミンK拮抗薬、エストロゲン含有薬、糖尿病治療薬、吸入β2刺激薬。
術前6週間または手術当日にAMIを発症した患者を除いて、THR群6万6524人(平均追跡期間は3.9年、平均年齢は71.9歳)、THRの対照群20万1人(4.1年、71.9歳)、TKR群2万8703人(3.9年、67.2歳)、TKRの対照群8万6164人(3.7年、67.2歳)を分析対象にした。
THR群の術後2週間のAMIリスクは、対照群に比べて有意に高かった。調整ハザード比は25.5(95%信頼区間17.1-37.9)。AMIリスクは2~6週後も有意に上昇しており、調整ハザード比は5.05(3.58-7.13)となった。その後、AMIリスクはベースラインのレベルに戻った。
TKR群でも、術後2週間のAMIリスクは上昇していた。調整ハザード比は30.9(11.1-85.5)。だが、2週間を過ぎてからのAMIリスクは対照群との間に有意差を示さなかった。2~6週の調整ハザード比は0.81(0.37-1.77)。
術後6週間のAMIの絶対リスクは、THR群が0.51%、TKR群は0.21%になった。この期間の調整ハザード比はTHR群が17.8(13.5-23.4)、TKR群は8.69(4.73-16.0)で、6週以降52週までのAMIリスクは、それぞれ0.95(0.82-1.10)と0.70(0.53-0.92)だった。
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2012/08/06
大西 淳子=医学ジャーナリスト
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