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記者の眼

事業譲渡を迫る厚労省に翻弄される化血研

 血漿分画製剤ワクチンなど生物学的医薬品の研究開発や製造販売を行う一般財団法人化学及血清療法研究所(熊本市北区)。毎年の売上高は400億円規模で、国内の小規模製薬企業を優に上回る。その化血研で、血漿分画製剤の不正製造が発覚してから、約2年半がたった。

 2017年6月、日経バイオテクは化血研の事業譲渡交渉や理事長交代に関する内部資料を入手した。資料を足掛かりに取材を進めたところ、アステラス製薬との事業譲渡交渉が当初から難航していたことや、一身上の都合とされていた理事長交代の理由が事実上の解任だったことなどが明らかになった。本誌では、2017年9月25日号特集「迷走を続ける化血研問題」で詳細を報じた。

 今回明らかになった事実を含め、化血研問題のこれまでを振り返ってみよう。2015年5月、内部通報を受けた医薬品医療機器総合機構(PMDA)の立ち入り調査によって、化血研が1970年代から製造販売承認書と異なる方法で血漿分画製剤の製造を行っていた医薬品医療機器等法違反が判明。組織ぐるみで虚偽の製造記録を作成するなど、隠蔽工作まで行っていたことが明るみになった。それに対して厚労省は、2016年1月に業務停止命令を発出。併せて、当時の塩崎恭久大臣の指示を受け、外部への事業譲渡など体制の抜本的な見直しを迫った。

 厚労省の意向を汲んだかどうかは定かではないが、火中の栗を拾いに行ったアステラス製薬と、化血研との事業譲渡交渉は難航した。本誌の取材では、協議の過程で、アステラスから一部の事業を切り離したい意向や、一部の従業員を解雇する計画などが示され、約1900人の従業員への説明には相当な時間を要すると考えられた。化血研が技術基盤を導入している外部の製薬企業とのライセンス契約について、見直しを行う必要も出てきた。薬害エイズ訴訟の被告企業として、血漿分画製剤を使用する患者団体とも協議もする必要があった。交渉が簡単ではないとみたアステラス製薬は、2016年4月上旬、一旦交渉を断念する意向を示したという。

 その後、熊本地震などが起きたものの、厚労省の意向で、事業譲渡に向けた両社の話し合いはずるずると続けられた。しかし、事態が大幅に前進することはなく、当初事業譲渡交渉をまとめる期限であった2016年5月上旬、業務停止期間が終了する。2016年8月には、近畿大学薬学総合研究所長だった早川堯夫氏が新たに理事長に就任し、ガバナンス体制の見直しなどが進む中で、事業譲渡を進める合理的根拠が現時点では見いだせないとして、事業譲渡に「慎重を期す必要がある」との文書を厚労省に送付。交渉は膠着状態となり、2016年10月にアステラス製薬は協議打ち切りを発表した。

 それと前後して、化血研に再び、不正製造疑惑が持ち上がる。2016年10月、厚労省は、化血研の日本脳炎ワクチンについて「承認書と異なる製造実態が確認された」と発表したのだ。塩崎大臣は当時、「再び法律違反を繰り返して、報告命令等を行うに至ったことは大変遺憾」と述べ、「更なる処分も検討」すると明言。“不正製造を再び隠蔽した化血研”を世間に印象付けた。

 ところが、同月、化血研は日本脳炎ワクチンに関し、「承認書と異なる製造実態はない」と異例の反論に出る。厚労省は、ワクチンを製造するウイルスバンクなどの作製時、γ線照射していないウシ胎児血清を使用したことが、承認書と異なると指摘していたもよう。しかし、本誌が入手した化血研の反論文書(弁明書)によれば、特定の製造番号(ロット)のウイルスバンクなどの作製に、γ線照射していないウシ胎児血清を使用することは、日本脳炎ワクチンの承認書に書かれているという。

 日本脳炎ワクチンに関しては、厚労省の勇み足だった可能性が高い。実際、日本脳炎ワクチンについて、当初は「更なる処分も検討する」としていた厚労省だったが、化血研が反論文書を提出してから1年以上がたった現在も、何の処分も下していない。厚労省は、一度振り上げた拳の下ろしどころがないといった状況だ。
 

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