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記者の眼

不足だけでないインフルエンザワクチンへの懸念

 生産が例年より遅れ、供給不足の恐れが指摘されている今シーズンインフルエンザワクチンに、新たな懸念事項が浮上している。

 今冬は、仮にAH3亜型ウイルスが流行した場合、ワクチン株流行株との抗原性の合致度が良好でないことから、ワクチンの効果が十分に発揮されない可能性がある。厚生労働省AH3亜型についても有効率は期待できるというデータを示しているが、医療現場ではAH3亜型でワクチンが効きにくいという最悪のシナリオも想定した準備が求められている。

 インフルエンザワクチンは、感染予防に加えて重症化予防にも欠かせない。2015/16シーズンからはカバー範囲が広がり、近年流行しているA型(A/H3N2、A/H1N1pdm2009)とB型(ビクトリア系統、山形系統)の4種類のウイルスに対する予防効果が期待されている。しかし今年は、AH3亜型において、ワクチン株と流行が予想される株との間で抗原性の一致度が低いというハンディを背負っている。

 インフルエンザワクチンは、鶏卵で増やすという工程をたどる。このため、ウイルスが卵の中で増える段階で抗原性が変化してしまう「鶏卵馴化による抗原変異」という問題が生じる。つまり、ワクチンの基になったインフルエンザウイルス株と、実際に流行する可能性が高いウイルス株の間で抗原性が一致していたとしても、ワクチン製造の過程で抗原性が変化することがあるのだ。

 これまでも度々、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスが発育鶏卵に馴化するという難題に直面してきた。例えば、2012/13シーズンにAH3亜型が流行したときは、ワクチンに選定した株と実際に流行した株で抗原性の一致率は高かったものの、製造したワクチン株と流行株との一致率は低下していた。つまり製造過程において、ワクチン株が馴化という洗礼を受け、その抗原性が低下してしまっていた。

 実は昨シーズンも「鶏卵馴化による抗原変異」が起こり、流行株と抗原性が乖離するという傾向が認められた。流行したウイルス(分離株)の9割以上が、ワクチン製造株に対する抗血清との反応性が低下しており、ワクチン株と流行株の抗原性が相違していのだ(図1)。

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