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記者の眼

世論喚起は「自業自得」の暴論よりもエンタメで

 もうずいぶん前のことのように感じるが、今年9月、フリーアナウンサー長谷川豊氏の「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」と題したブログ記事に、読者や患者団体などから多くの批判の声が上がった。その結果、長谷川氏はテレビのレギュラー番組などの仕事を失ったという(日経ビジネス、渦中の長谷川豊アナ、「『退場』を受け入れる」)。

 冒頭のブログの内容を短く記すと、「透析患者の中には遺伝的な疾患による人もいるし、人によって原因は様々だが、8~9割ほどの患者は自業自得の食生活と生活習慣が原因。透析患者には1人当たり年間500万円の医療費が掛かっている。こんな日本の保険システムは解体しろ」というものだ。

 この内容について、「8~9割ほどの患者さんの場合『自業自得』の食生活と生活習慣が原因と言わざるを得ません」というのは明らかに言い過ぎだとか、そもそも体質の違いや「バランスの良い食事」を取ることも難しい社会的背景がある人などもいる中で、どこまでが自業自得と言える範疇なのか──といった指摘は言い尽くされていることであろうから、今さら言及するのはやめておく。

「自業自得」は本当にやめませんか
 筆者は個人的に、医療に「自業自得」という考えを持ち込むのがあまり好きではない。「自業自得」というアプローチの例では、違法薬物の使用防止広告を思い出す。いまだに、電車内の広告などで、違法薬物に手を出したらこうなってしまうよ、と若い男女の顔がみるみる変わっていくホラー映像のような手法の啓発を見掛ける。また、「ダメ。ゼッタイ。」「覚醒剤やめますか?それとも人間やめますか?」などのキャッチコピーは、かなり強く印象に残るものだ。聞いたことがある人も多いのではないだろうか。

 こうした強烈なインパクトを残し、「違法薬物には絶対に手を出してはいけないんだ」と思わせる広告には、一定の効果はあるだろう。だが、使用防止だけを強い言葉で伝えることは、使用者への差別を助長したり、使用者の周囲の人を傷つける面もある。

 以前、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦氏が、「覚醒剤を使用して少年院に入っていた少年が、前述のキャッチコピーを聞いたとき、彼の父親は薬物を使用したために刑務所に服役中でした。『うちの親父は人間じゃない、自分もその息子だから人間じゃないんだ。それならそういう生き方をしよう』とその時期から自分も薬物を使うようになったと言うのです」(日経メディカル、「今朝、薬物を使った依存症者を歓迎する理由」)と話していたのが印象的だった。

 ただし、増え続ける医療費への対策は喫緊の課題であり、国民の議論を呼び起こすこと自体は重要だ(日経メディカル、「医療費『41.5兆円』で日本の財政は大丈夫?」)。長谷川氏も、強い言葉で世論を喚起し、議論のきっかけを作ろうとしてきたという。ブログには、「私は、炎上ってとても素晴らしいものだと思っています。だって拡散できるのだから。(中略)一人でも多くの人に知ってほしいのです。一人でも多くの方々に考えてほしいのです。その為には…これはもう何度も何度も同じことを書いてきているのだけれど…『ハセガワという極論を言うバカ』を叩いてスカッとしながらでも全然いいのです。『ハセガワ』をバカにしながら、それでもみんなで少しでも知って考えることが大事なんです」と書かれている。
 

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