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 あるIT系への投資をメーンとするベンチャーキャピタルの幹部と話していたときのこと。その幹部は「ヘルスケアITを手掛けるベンチャーは、投資の対象にしにくい」とぽつりとこぼした。

 現在、未上場ベンチャーがプレゼンテーションを行う場でデジタルヘルス特集が繰り返し組まれるなど、ヘルスケア分野でのICT(情報通信技術)の活用が盛り上がっているようにも見える。にもかかわらず、なぜか。前出の幹部は「ヘルスケアITは大きく会社の価値が高まらず、うまみがない」とその理由を説明する。

 ヘルスケアITを手掛ける主な企業のうち、医療ポータルを核に事業を広げてきたエムスリーこそ株価の時価総額が1兆円を超えるものの、同じく臨床医が触れる機会も多いポータル事業を手掛けるメドピアとケアネット、いずれも時価総額は40億円に満たない(2016年9月14日現在)。「通常は大型のサービスがあると、類似の企業の価値も高まるものだが、ヘルスケアITはエムスリーの一人勝ちだ」(前出の幹部)。

 エムスリーとは別の業態でヘルスケアITを手掛ける企業でも、医療データを販売するメディカル・データ・ビジョンの285億円、遠隔診療を打ち出したことで大幅に値を上げたMRTの97億円程度。「上場時の時価が100億円に満たないと、ベンチャーキャピタルとして手間暇掛けて支援をしても、正直割に合わない」(前出の幹部)という。

 ちなみに医薬品の販売まで時間の掛かるバイオベンチャーも上場時の時価総額は100億円前後にとどまるケースが多く大型化しにくいが、「大型化はしにくいが、技術さえよければ赤字でも上場しやすい。ITよりも上場の可能性は高く、利益を取りやすい」(別のベンチャーキャピタル幹部)という。

 一方、ヘルスケアITを手掛けるベンチャーが大型化しにくいのはどうしてか。サービスがまだこなれておらず、マネタイズしにくいという意見が強い。特に医療関連製品・サービスは公的な色合いが強く、国民皆保険制度の下で償還価格が設定されているため提供者側が追加利益を期待できない投資を敬遠したり、利用者側も通常の保険診療では3割以下の負担で済んでいるためベンチャーが提供する製品やサービスが相対的に高額に映るのでは、との見方もある。

 だが、例えば一般向けのスマートフォンの歩数計アプリで、ただ記録させるだけのものでは意識の高い人以外を歩かせることはできなかったのに対して、ポケモンGOではゲームの一部に歩くことも組み込むことで、結果として歩数計アプリよりも長い距離をユーザーに歩かせることに成功しているようだ。ポケモンGOのヒットで、任天堂の株価も大きく上がっている。

 ヘルスケアITという領域は、高齢化や医療の高度化によって膨らむ医療費を抑えたり、医療従事者の過重労働解消の切り札になる可能性もある。ハードルが高いことを理由にしない、市場から高く評価されるサービスが登場することを期待したい。
 

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