日経メディカルのロゴ画像

 認知症高齢者へのケアに注力する、ある介護老人保健施設を訪ねた。施設長を務める医師に施設での取り組みについて取材をしていく中でふと、「このあと外来があるんですよ」という話に。聞くと、施設長職にとどまらず、併設診療所での外来、地域の学校医、自治体の認知症ケア関連の会議メンバー、介護保険の認定委員を務めるなど、非常に多忙の身だった。
 
 しかし施設長は、「『老健の施設長をしています』と言っても、『ふーん』程度の薄い反応しか返ってこないんです」と苦笑した。老健の施設長というと、「あまり忙しくなさそう」というイメージが浸透しているからだろう。

リハビリから認知症対応、ターミナルまで多様な役割
 高齢化率が30%を超えるとされる2025年に向け、岐路を迎えつつある医療機関・介護施設だが、介護老人保健施設も例外ではない。厚生労働省は2012年度介護報酬改定で、入所者にリハビリテーションなどを積極的に提供し、在宅復帰を支援する老健施設を評価する方針を打ち出した。直近6カ月の在宅復帰率が50%超、ベッド回転率が10%以上、直近3カ月の要介護4・5の入所者の割合が35%以上――などの要件を満たす老健施設(「強化型老健施設」)の基本報酬を新設し、従来型よりも高くしたのだ。

 医療機関から退院したものの、まっすぐ自宅に帰れない人などに集中的にリハビリを実施し、要介護度の高い高齢者であっても在宅に戻れるよう支援する。また、入所者が肺炎や尿路感染症などを起こした時に、医療機関に搬送することなく施設内で治療した場合にも、新たに報酬が付いた。つまり、急性増悪などにも施設内できちんと対応し、安易な救急搬送は控えてほしいというわけだ。さらに、必要に応じてターミナル期の入所者を施設内で看取った場合の報酬も見直され、評価が高まった。

 在宅復帰支援を中心に、老健施設に期待される機能は実に多岐にわたっている。一部で言われるような、「特別養護老人ホーム入居までの待機施設」の役割を果たしているだけでは、やっていけなくなりつつあるのが現状だ。実際、サービス付き高齢者向け住宅(2013.3.4「知ってますか? 大ブームの『サ付き住宅』」参照)が急増している影響で、いわゆる「特養待ち」の入所者が減り、稼働率が低下傾向にある老健施設も出始めていると聞く。

「老健の施設長“でも”やるかな」は過去の話に
 「介護老人保健施設の強みは、医師も含めた全職種がフラットな関係で協力し合い、利用者本位のケアを提供できること」と全国老人保健施設協会(全老健)の幹部は話す。しかし同時に、上記のような多様なニーズに柔軟に対応していくには、医師のリーダーシップが欠かせない。高いマネジメント能力とともに、自身のフットワークの軽さも必要だろう。それらをフル活用して日々の職務に当たっている冒頭の施設長は、「老健の施設長=閑職」という既存のイメージを覆すものだった。

 同時に、機能の拡大に伴い、医師としてのスキルもこれまで以上に求められるようになるだろう。経営面から考えても、軽い症状でもすぐに入所者を病院に送ってしまうような医師が勤める老健施設では、どうしても稼働率は安定しにくい。

 今後、老健の施設長という職に意欲的に取り組み、地域で大活躍する医師が増えていけば、「老後はどうするの?」「老健の施設長“でも”やるかな」などといった会話が交わされることはなくなるかもしれない。

この記事を読んでいる人におすすめ