DI Onlineのロゴ画像

スインプロイクが真のOIC治療薬になり得た訳

2017/08/07

 「スインプロイク(一般名ナルデメジントシル酸塩)って覚えにくっ!」。あゆみさんは独りごちながら、スマホをスクロールしている。「オピオイド誘発性便秘症って、OIC(opioid-induced constipation)と略すんだ。いつか薬歴で使っちゃおうっと」。

 OICの問題は多岐にわたる。まずはオピオイドが増やせない原因となることだ。患者がオピオイドを勝手にやめてしまうこともある。痛みが取れるのは分かるが便秘になるから飲みたくない、というわけだ。僕らはオピオイド服用患者に対して、便秘になるのは当たり前のことで、下剤を飲んでください、と応対するわけだが、事はそう簡単にはいかないこともままある。

 さらに便秘だけの問題にとどまらない。食欲不振、腹痛、悪心・嘔吐、腸閉塞、呼吸困難(横隔膜の伸展不良)、尿閉、そしてせん妄。便秘をコントロールできればせん妄が治る、ということもよくあるらしいのだ。

 僕はそんなことを考えながら、頬杖をつき、あゆみさんの方に顔を向ける。あゆみさんは僕の視線などお構いなしにスインプロイクのインタビューフォーム(IF)の文章を指で追っている。

 “オピオイド受容体にはμ、δ、κ受容体があり、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、トラマドール等、多くのオピオイド鎮痛薬による鎮痛作用は主に中枢のμオピオイド受容体を介して発現する。便秘をはじめとする胃腸障害は、主に消化管に存在する末梢のμオピオイド受容体へのオピオイドの結合に起因し、消化管運動の抑制(筋緊張、蠕動運動の抑制、胃内容排出の抑制、消化管輸送の抑制)、消化管神経活動の抑制(サブスタンス P やアセチルコリン放出の抑制)及びイオンや腸液分泌の減少等が複合的に起こり、その結果として固形便や排便障害、膨満感、腹痛等を伴う便秘が引き起こされると考えられている。”

 「そっか、オピオイドって脳で効いてるんだ。痛みのシグナルって、最終的には脳に行くもんね。どこで効いているかなんて考えたことなかったな~」。あゆみさんは感想を漏らしつつ、読み進める。

 “オピオイド鎮痛薬の鎮痛作用に影響を与えず、経口投与可能な便秘改善作用を有する化合物として、末梢のμオピオイド受容体拮抗薬を探索し、経口吸収性を保ち、かつ血液脳関門の透過性を極めて低くした、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬*ナルデメジンが開発品として選定された。非臨床試験で、ナルデメジンは腸管でのオピオイドの消化管運動、消化管神経活動の抑制作用に対して強力な拮抗作用を有することにより便秘改善作用を示し、これらの作用を示す用量では中枢神経系を介するオピオイド鎮痛薬の鎮痛作用に影響する可能性は低いことが示された。”

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

この記事を読んでいる人におすすめ