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「コリンエステラーゼ阻害薬同士の切り替えは有用?」

2014/06/18

 梅雨なのにスコールのような夕立で、患者の波が途切れる。僕とあゆみさんは、今がチャンスとばかりに、たまっていた薬歴を仕上げていく。

 「アリセプトを吐き気のせいで続けられなかったHさん、リバスタッチでうまくいきましたよ。やっぱり、内服薬より貼り薬の方が消化器症状は少ないですね」

 器用にボールペンをくるくる回しながら、あゆみさんが唐突に話し出す。今日もご機嫌のようだ。僕は手を止めて、あゆみさんの前に広げられた薬歴をのぞき込む。

 軽度のアルツハイマー型認知症(AD)という診断で薬物治療を開始した80歳のHさん。アリセプト錠3mg(一般名ドネペジル塩酸塩)は吐き気のために継続できず、リバスタッチパッチ4.5mgリバスチグミン、商品名イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)へ変更。その後は、吐き気や痒みといった副作用もなく、継続できているようだ。

 「さてさて」と、Hさんの薬歴をファイルにしまいながら、あゆみさんは思い出したようにこうつぶやく。

 「でも、これが消化器症状じゃなくて薬疹とかだったら、同じ系統はマズイからメマリーしかなかったですね」

 僕は再び手を止める。そして、「メマリーは軽度のADに適応はないよ」と、ちょっといじわるをしてみる。

 「う~ん、コメント入れるしかないですかね。それか『中等度』って書いてもらうか」とあゆみさん。

 なるほど。確かに重症度は医師が決めるものだし、それも手ではある。彼女の頭の中では、あくまでアリセプトとリバスタッチ、それからレミニールガランタミン臭化水素酸塩)の3つはコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)で、「ChEIからの切り替えといえばメマリーメマンチン塩酸塩)」という図式が成り立っているようだ。だが、そもそも「同じ系統はマズイからメマリーしかない」というのが間違っている。

 下図は日本神経学会が監修した「認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012」にある、「病期別の治療薬剤の選択アルゴリズム」だ(図1)。これによると、軽度のAD患者に対しては、ChEIのうちいずれか1剤を選択するが、効果がないか不十分な場合は、別のChEIへの変更が勧められている。

著者プロフィール

山本雄一郎(阪神調剤ホールディンググループ 有限会社アップル薬局[熊本市中央区])
やまもと ゆういちろう氏 1998年熊本大学薬学部卒業。製薬会社でMRとして勤務した後、アップル薬局に入社。2017年4月にアップル薬局が阪神調剤ホールディンググループの一員に。ブログ「薬歴公開byひのくにノ薬局薬剤師。」を執筆中。2017年3月に『薬局で使える実践薬学』(日経BP)を発刊。2017年4月より熊本大学薬学部臨床教授。

連載の紹介

山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」
薬局で患者さんの何気ない言葉にハッとしたり、後輩からの意表を突く質問に筋道立てて説明できなかったりしたこと、ありませんか? そんな臨床現場に転がる疑問の裏には、薬学の根幹を成す真実が隠れていることも。それらの真実を、「薬局薬学のエディター」を志す熱血薬剤師の山本氏がモノローグ調で解き明かします。

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