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副鼻腔炎に効く漢方(1)
副鼻腔炎の考え方と漢方処方

2017/07/19

 副鼻腔炎は、鼻の周囲にある空洞(副鼻腔)の粘膜が炎症を起こしている病態です。副鼻腔は鼻の中(鼻腔)とつながっているため、外界からの細菌感染、ハウスダストや花粉のアレルギー、たばこの煙の刺激などにより、炎症を起こします。鼻詰まり、鼻水(鼻汁)、頭痛や顔面痛など、様々な症状が生じます。

 副鼻腔は顔面に左右対称に広がっており、両目の間にある篩骨洞(しこつどう)、頬の裏側にある上顎洞(じょうがくどう)、篩骨洞の奥にある蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、鼻の上の額の裏にある前頭洞(ぜんとうどう)があります。これらの副鼻腔は粘膜で覆われており、正常な状態においては空気で満たされています。

 この副鼻腔にウイルスや細菌が感染するなどして炎症が生じると、急性副鼻腔炎になります。篩骨洞に炎症が生じると、目の内側が痛みます。上顎洞の炎症では、頬、鼻の周り、歯の辺りが痛みます。蝶形骨洞に炎症が生じると、頭痛や頭重感が生じます。前頭洞の炎症では、額が痛くなります。痛みのほかに、炎症による鼻詰まりが生じます。炎症が化膿して生じた黄色い膿が副鼻腔からあふれ出して鼻水に混ざり、粘稠な黄色い鼻水が出ます。

 副鼻腔粘膜の炎症が治りきらずに長引くと、慢性副鼻腔炎となります。膿を排泄する機能が低下するために膿が副鼻腔にたまることが多く、蓄膿症とも呼ばれています。炎症が長引くことにより粘膜の腫れが慢性化し、鼻詰まりが悪化します。鼻をかんでもかみきれない感じがして、すっきりしません。粘膜が腫れて鼻腔との通路がふさがれると、炎症は悪化します。鼻の奥で不快な臭いがするようになります。腫れた粘膜が鼻腔内に広がるとポリープ(鼻茸[はなたけ])ができます。鼻水が緑色になったり、長期化すると白っぽくなったりします。

 鼻詰まりや鼻水のほかに、鼻水が喉に流れる後鼻漏(こうびろう)も起こります。咳が出ることや、鼻声になることもあります。長期化して粘膜や神経が障害されると、においが分からなくなります(嗅覚障害)。味覚障害にもなります。膿の臭いや、後鼻漏、口呼吸による口腔内乾燥の影響により、口臭が生じます。長期化するに従い、疲労感や集中力の低下もみられるようになります。中耳炎や咽頭炎、気管支炎、視力の低下など、ほかの病気を引き起こすこともあります。

 かぜやインフルエンザに罹患して引き起こされる急性副鼻腔炎なら、病院で処方される抗菌薬や抗炎症薬を服用するうちに自然に治癒することが多いですが、長期化して慢性副鼻腔炎となった場合は、漢方薬による体質改善が効果を発揮します。

 副鼻腔炎と関係が深いのは、熱邪(ねつじゃ)です。熱邪は、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪で、炎症や、化膿、発熱、充血、疼痛、出血などの熱証を表します。

 熱証には、正気と病邪の関係において、病邪(今の場合は熱邪)の勢いが盛んな実熱(じつねつ)と、正気(免疫力や抵抗力)が衰えたために相対的に病邪の勢いが強くなったりなかなか治らなかったりする虚熱(きょねつ)とがあります。実熱の場合は熱邪を冷まし、虚熱の場合は正気を補って、熱証を治療します。同じ副鼻腔炎という疾患でも、西洋医学のように誰に対しても抗菌薬や抗炎症薬が投与されるのではなく、患者の証によって使う処方が異なるのが漢方の特徴です。

 また漢方では「肺は鼻に開竅(かいきょう)する」といい、鼻は五臓の肺と関連が深い器官と捉えています。そのため、鼻のことを肺竅(はいきょう)ともいいます。この肺が熱邪に侵されて副鼻腔炎となるのが代表的なケースです。

 肺は直接外気と接するので、風邪(ふうじゃ)など外界の病邪の影響を受けやすいのが特徴です。外界からの病邪によって引き起こされる病変を外感病(がいかんびょう)といいますが、この外感病の影響により肺の機能が乱れると、副鼻腔炎に罹患します。風邪は、ウイルスや細菌などによる感染症に近い概念です。

 漢方では、漢方薬で熱邪を除去し、肺の機能を立て直すことなどにより、副鼻腔炎を治療します。外感病による副鼻腔炎の場合は、風邪を漢方薬で除去して副鼻腔炎を治療します。

 副鼻腔炎の証には、以下のようなものがあります。

 炎症が激しいために鼻詰まりが強く、鼻水が粘稠で黄色いようなら、「肺熱(はいねつ)」証です。肺は五臓の1つで、呼吸・水分代謝・体温調節などの機能を指します。器官としての肺などの呼吸器系のほか、鼻、皮膚などが含まれます。この肺に熱邪が侵入するとこの証になり、炎症を起こし、副鼻腔炎になります。実熱タイプの副鼻腔炎です。肺熱を除去する漢方薬で炎症を冷まし、膿の発生を抑制する一方で排出を促進し、副鼻腔炎を治療します。

 慢性副鼻腔炎で口臭や口渇を伴うようなら、「肺陰虚(はいいんきょ)」証です。五臓の肺の陰液が不足している体質です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。陰液の不足により相対的に熱が余って熱邪となり、副鼻腔炎や、口臭、口渇が生じます。虚熱タイプの副鼻腔炎です。免疫力の低下により細菌感染が持続し、なかなか治りきりません。漢方薬で肺の陰液を補い、副鼻腔炎を治します。陰液が補われることにより、鼻水や膿が排泄されやすくもなります。

 精神的なストレスや感情の起伏などが関与しているようなら、「肝火(かんか)」証です。体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑である五臓の肝の機能(肝気)が、ストレスなどの影響によりスムーズに働かなくなり鬱滞し、肝鬱気滞(かんうつきたい)証となって熱邪を生み、それが副鼻腔で炎症を引き起こします。粘性の濃い鼻水や、目の痒み、充血を伴います。実熱タイプの副鼻腔炎です。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、副鼻腔炎を治療していきます。

 黄色く粘稠な鼻水が多く出て後鼻漏も生じているようなら、「熱痰(ねったん)」証です。津液の停滞により体内に貯留した異常な水液(痰)が熱邪と結び付き、五臓の肺の機能(肺気)を阻滞している証です。実熱タイプの副鼻腔炎です。痰も多く、鼻水や痰がすっきり排泄されません。咳嗽も伴います。熱痰を排除する漢方薬を用い、副鼻腔炎を治します。

 入浴時や、蒸しタオルなどで顔面を温めたときに症状が軽くなるようなら、「血瘀(けつお)」証かもしれません。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の水液の停滞、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患や体調不良が慢性化、長期化してこの証になる場合もあります。血行が良くないために、粘膜が傷つきやすくなっており、防御機能も低下しています。そのため細菌やウイルスが感染しやすく、粘膜が炎症を起こしやすくなっています。血行悪化の影響で熱邪が上半身に鬱積し、また血行不良により鼻粘膜に水液の滞留が生じやすいこともあり、副鼻腔炎が長引きます。入浴などによっても一時的に血行が良くなりますが、血行を促進する漢方薬で体質的にも血流が改善されれば、副鼻腔炎の根本治療につながります。

 以下の2つは、外感病による副鼻腔炎に多い証です。急性副鼻腔炎にみられることが多い証です。

 鼻詰まり、頭痛、悪寒、鼻水などの症状がみられるなら、「風寒(ふうかん)」証です。風寒は、風邪と寒邪が合わさったものです。風邪は、自然界の風が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪であり、寒邪は、自然界の寒冷が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪です。この風寒が肺に侵入して肺の機能が乱れると、副鼻腔炎になります。この証も入浴時に症状が緩和されます。風寒を発散させて除去する漢方薬で、急性副鼻腔炎を治療します。

 鼻詰まり、粘稠な鼻水、発熱、頭痛、口渇、目の充血、顔面やまぶたの腫れなどの症状があるなら、「風熱(ふうねつ)」証です。風熱は、風邪と熱邪が合わさったものです。風邪は、自然界の風が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪であり、熱邪は、自然界の火熱が引き起こす現象に似た症状が表れる病邪です。この風熱が肺に侵入して肺の機能が乱れることにより、副鼻腔炎に罹患します。風熱を発散させて除去する漢方薬を用い、急性副鼻腔炎を治します。

■症例1

「かぜを引いた後、鼻が詰まっています。どろっとした鼻水が出ます」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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