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ED(勃起不全)に効く漢方(1)
ED(勃起不全)の考え方と漢方処方

2015/08/18

 男性特有の病気や悩みのうち、漢方治療を求める人が多いのは、無精子症や乏精子症、精子無力症(精子の運動率が低い)など精子の病気(男性不妊)、そして勃起不全(ED)です。急性・慢性前立腺炎や前立腺肥大症など、前立腺の病気も少なくありません。精子の病気の悩みは妊娠を希望するカップルに集中しますが、EDは幅広い年齢層の男性が持つ悩みの1つです。

 EDの原因として、加齢のほかによくみられるのは、精神的なストレスや不安、うつ、焦りなどによる心因性EDです。その他に、食事の不摂生、アルコール類の飲み過ぎ、運動不足、喫煙などの生活習慣が原因となる場合もあります。糖尿病や高血圧、脂質異常症などの病気の影響でEDになることもあります。

 生殖機能は、五臓の腎に含まれます。腎の機能(腎気)は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖、並びに水液や骨をつかさどることです。

 漢方の古典『黄帝内経(こうていだいけい)』によると、男性の生殖機能は8年周期で変化します。そこには、例えば16歳で射精できるようになって子どもが作れるようになり、24歳で腎気が強くなり、32歳で充実する、とあります。そして腎気は40歳で弱り始め、56歳で衰え、64歳になると腎がつかさどる歯も髪も抜け落ちる、とあります。40歳前後以降の性機能は、年齢とともに衰えていくものなのです。

 このように性機能は腎と深い関係にありますが、EDの原因は腎の不調だけではありません。精神情緒と関係が深い肝(かん)、意識と関係が深い心(しん)、エネルギーと関係が深い脾(ひ)の不調によってEDとなる場合も多くみられます。

 西洋医学の門をたたけばシルデナフィルクエン酸塩(商品名バイアグラ他)、タダラフィル(シアリス)、バルデナフィル塩酸塩水和物(レビトラ)など即効性のあるED治療薬があります。ただし、それらの薬で副作用の出る人、あるいは以前のような健康的で自然な性機能を回復させたい人などは、漢方薬を服用して健全な心身の状態を取り戻すことにより、EDの治療をします。

 EDの多くを占める心因性EDだけでなく、糖尿病などによって生じる血管や神経の障害が原因となって起こる器質性EDに対しても、漢方薬が有効な場合は少なくありません。

 EDの証(しょう)には、以下のようなものがあります。

 1つ目は「肝火(かんか)」証です。五臓の1つ、肝(かん)の機能(肝気)が、強いストレスや緊張、激しい感情の起伏などの影響で失調すると、肝気の流れが鬱滞して熱を帯び、この証になります。肝は、身体の諸機能を調節(疏泄[そせつ])する臓腑です。自律神経系や情緒の安定、気血の流れと深い関係があります。いらいら、怒りっぽい、不眠、のぼせ、ほてり、顔面紅潮などの症候がみられます。そして肝気の流れの悪化の影響が神経系に及ぶと、EDが生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、肝火を鎮め、EDを治していきます。

 2つ目は「心血虚(しんけっきょ)」証です。人間の意識や思惟など、高次の精神活動(神志[しんし])をつかさどる五臓の心(しん)の機能(心気)を養う心血が不足している体質です。過度の心労や、思い悩み過ぎ、過労が続くことにより心に負担が掛かり、心血が消耗してこの証になります。心血の不足により神志が不安定になり、抑うつ状態となってEDになります。漢方薬で心血を潤し、抑うつ状態を改善し、EDを治療していきます。

 3つ目は「腎陽虚(じんようきょ)」証です。腎の陽気が不足している体質です。陽気とは気のことで、人体の構成成分を陰陽に分けて考える場合、陰液と対比させて陽気と呼びます。生活の不摂生、過労、慢性疾患による体力低下、加齢などにより人体の機能が衰えて冷えが生じるとこの証になります。腎陽が虚弱になると、性機能や内分泌機能が衰え、性欲が減退し、EDになります。腎陽を補う漢方薬でEDに対処します。

 4つ目は「腎陰虚(じんいんきょ)」証です。腎の陽気ではなく、腎の陰液が不足している体質が腎陰虚です。陰液とは、人体の構成成分のうち、血・津液・精を指します。過労、不規則な生活、大病や慢性的な体調不良、性生活の不摂生、加齢などにより精が減り、EDになります。陰液の不足により相対的に陽気が亢進するため、性欲はあるが持続しないようなタイプのEDです。腎の精気など腎陰を補う漢方薬でEDを治します。

 5つ目は「脾気虚(ひききょ)」証です。消化吸収や代謝をつかさどる五臓の脾の機能(脾気)が弱く、生命エネルギーを意味する「気」が不足している体質です。過労、生活の不摂生、慢性疾患などにより気を消耗すると、この証になります。気の不足により、やる気が起こらず、EDになります。漢方薬で脾気を強めてEDの治療を進めます。

 6つ目は「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。精神的ストレスや、冷え、体内の過剰な水分、生理機能の低下などにより、この証になります。疾患が慢性化して長引いて血流が悪くなり、この証になる場合もあります。血管に動脈硬化があると陰茎の動脈が広がらないために十分な血流が流れ込まず、満足な勃起が得られません。糖尿病や高血圧、脂質異常症の場合も同様の現象が生じ、EDになります。血行を促進する漢方薬で、EDを治療します。

■症例1

「このところED気味です。パートナーにきついことを言われて以来、不調です」

著者プロフィール

幸井俊高(「薬石花房 幸福薬局」代表)
こういとしたか氏。東京大学薬学部卒業。北京中医薬大学卒業。ジョージ・ワシントン大学経営大学院修了。1998年、中国政府より中医師の認定を受け、日本人として18人目の中医師となる。2006年に「薬石花房 幸福薬局」を開局。『漢方でアレルギー体質を改善する』(講談社)『男のための漢方』(文春新書)など著書多数。

連載の紹介

幸井俊高の「漢方薬 de コンシェルジュ」
東京の老舗高級ホテル「帝国ホテル」内で、完全予約制の漢方薬局を営む幸井氏。入念なカウンセリングを行い、患者一人ひとりに最適な漢方薬を選んでくれる薬局として、好評を博している。これまで多くの患者と接してきた筆者が、疾患・症状ごとに症例を挙げて、漢方薬の選び方と使い分けについて解説する。

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