
骨董市(東京・有楽町)で見つけたガラス容器 2012年8月19日
本コラムで何回か書いてきた「臨床研究における倫理手続」に対して、多くの方からご意見をいただきました。肯定的な意見もありましたが、否定的な意見も少なくありませんでした。肯定的な意見は「これまであまり考えたことがなかったので参考になった」というものがほとんど。一方、否定的な意見は主に、
(1)そこまでする必要があるのか
(2)臨床実習を妨害するのか
という2つにまとめられました。ともにもっともなご意見なので、私の考えをお伝えします。
まず、(1)そこまでする必要があるのか、という問題です。個人に関する情報は、知られても全く気にならないものから絶対に知られたくないものまで幅広いということは、理解していただけると思います。そして「知られてもいい」か「知られたくない」かは、本人の置かれている立場・状況で大きく異なります(下の図を参照してください)。
病気に関する情報はどうでしょうか。これは、ほとんどの人が「知られたくない」と思う情報です。つまり、薬剤師など医療提供者がアクセスできる「診療情報」は、誰もが知られたくない情報なのです。そのような情報を、本人の診療以外の目的に使用することを望む患者はいません。当たり前のことなのです。
「症例報告」自体が、その患者の治療においてプラスになることはほとんどありません。個人が特定できようができまいが、自分の知らないところで、自分の病気のことを報告してほしくないというのが、一般的な患者心理です。自分が患者になると、そのことがよく理解できるはずです。だから、診療目的以外に「診療情報」を利用する場合、患者からインフォームドコンセントを得ることが必要なのです。