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Look back Cardiology 2008
08年の臨床試験から抽出できる7つのキーワード

 2008年は、100年に1度という世界金融恐慌が始まった年として記憶されるのかもしれません。ですが、こと医療に関していえば、わが国のみならず米国でも、国家レベルでの医療供給体制が大きな曲がり角を迎えた年として記憶されることになると思います。08年の重大医療ニュースといえば、わが国では福島県立大野病院事件に対する無罪判決、医学部定員の25年ぶりの増員、首都における周産期救急医療の崩壊などが、米国ではオバマ新政権が目指す無保険者の解消政策が該当するはずです。

 いわば医療崩壊から医療再生への歴史上の転換点ともなり得る08年でしたが、循環器領域の研究、特に臨床研究においては、いかなる年だったのでしょう。それを、米国心臓学会(ACC)、欧州心臓学会(ESC)、米国心臓協会(AHA)の3大・国際循環器関連学会のハイライトから探ってみたいと思います。

 まずはACCからです。ACCOMPLISH試験では、ハイリスク高血圧症例に対してACE阻害薬とCa拮抗薬の併用の方が、ACE阻害薬と降圧利尿薬の併用よりも心血管合併症予防効果の上で優れていたという結論でした[1]。高血圧治療において降圧薬単剤で十分な降圧が得られることは少なく、患者の半数以上は併用治療が必要と考えられていますから、「リアルワールド」に近づいた臨床研究ではないでしょうか。

 ONTARGET試験では、ACE阻害薬とARBの間に心筋梗塞発症に有意差を認めず、ARBがACE阻害薬に劣るという危惧が一応否定されました[2]。両者の併用療法によるさらなるイベント抑制は立証されず、副作用がむしろ多かったことから、「併用治療」の有用性は否定されました。HYVET試験では年齢を問わず、後期「高齢者」でも積極的な降圧が脳卒中発症とその死亡を抑制しました[3]。

 次はESCからです。TRANSCEND試験では、ACE阻害薬に忍容性のない高リスク患者におけるARBの忍容性は良好でしたが、プラセボよりも「降圧を超えた多面的作用」、すなわち心筋梗塞、脳卒中、心不全などのイベント抑制は認められませんでした[4]。

 GISSI-HF試験では非虚血性を含む慢性心不全に対するスタチンの有効性が立証されなかったのに対し[5]、n-3多価不飽和脂肪酸は、予後および入院の抑制効果を示しました[6]。それが抗炎症作用ではなく心室性不整脈の抑制だったことから、スタチンの「多面的作用」も見直されつつあります。

 そしてAHAです。JUPITER試験では正常LDLコレステロール(LDL-C)値ながらCRP値が高い症例において、スタチンがさらにLDL-CとCRPを半減させ心血管イベントの一次予防効果を発揮しました[7]。正常のLDL-C値が実はまだ高かったのか、スタチンの抗炎症という「多面的作用」なのかの説明は先送りされました。

 I-PRESERVE試験では、収縮能の保たれた「拡張性心不全」においてARBの有効性が示されると期待されていましたが、結果はニュートラルでした[8]。

 JPAD試験はAHAで発表された日本からのエビデンスです。日本人2型糖尿病患者に対し、低用量アスピリンは65歳以上の「高齢者」群に限って、心血管イベントの一次予防効果が認められました[9]。

 日本からのエビデンスをもう一つ紹介しましょう。MELT-Japan試験は発症から6時間以内の超急性期脳梗塞(中大脳動脈閉塞症)患者を対象に、ウロキナーゼ動注による局所血栓溶解療法の有効性と安全性を確認した試験でしたが、実施途中で組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)静注が認可されたため「早期に中止」されました[10]。

 番外編扱いですが、循環器分野の大規模臨床試験(RCT)の「早期の中止」というと、08年2月、米国立衛生研究所(NIH)が実施していたACCORD試験が話題となりました。ACCORD試験では2型糖尿病患者に対し血糖の厳格管理を行っても心血管イベントの予防については有意差がなく、むしろ厳格治療群で死亡率が上昇したことから「早期に中止」されました[11]。低血糖も有意に多かったとのことです。

 5月の米国糖尿病学会(ADA)では、同様なRCTがほかに2本発表されました。まず、血圧コントロールに加えて血糖の厳格治療も行ったADVANCE試験。厳格管理によって糖尿病性合併症である大血管症と細小血管症を合わせた予防効果は認められましたが、大血管症だけでは予防効果は明らかではありませんでした。ただし、血糖の厳格管理を行っても死亡率は上昇しませんでした[12]。最後がVADT。08年12月にNEJM Onlineに論文が発表されました。こちらも、血糖の厳格管理を行っても心血管イベントは有意減少しないという結果でした[13]。

 これら3つの論文が出そろったことを受け、ACC、ADA、AHAの3団体は共同で、「罹病期間が長い、重症低血糖発作の既往がある、糖尿病性合併症が進行しているといった患者では、ほどほどの血糖管理が望ましい」という主旨のposition paperを、年末のJACC Online版で公開しています[14]。「心血管病リスクとしての糖尿病」の最適治療法は、まだ暗中模索といってよいかもしれません。

 以上、全くの独断と偏見ですが、08年の臨床試験の動向として、(1)リアルワールド、(2)併用治療、(3)高齢者、(4)多面的作用(pleiotropic effect)、(5)拡張性心不全、(6)早期に中止、(7)心血管病リスクとしての糖尿病――という7つのキーワードが浮かび上がりました。09年以降の世界の循環器臨床の潮流を暗示するものになるのか、注目したいところです。

 ただし、今回取り上げなかった臨床試験が重要ではないということではありません。念のためにコメントしておきたいと思います。



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