慢性心不全患者は、冠動脈狭窄を合併することが非常に多いです。また、高齢であることが多いので、心機能も低下しており、腎機能も悪いことが多いといえます。慢性心不全患者の予後は心機能以外に独立した危険因子として、腎機能悪化、貧血悪化でも規定されているので、心臓カテーテル検査や血行再建を行った場合、造影剤を使用し腎機能を悪化させる可能性があり、さらに手技中の出血により貧血を来すリスクもあります。
従って慢性的な冠動脈狭窄を有する慢性心不全患者に血行再検を行った場合、「かえって予後が悪くなるのではないか」という危惧が常にありました。その一方で、慢性的な虚血を改善することで心機能のさらなる悪化が食い止められ、「予後改善が得られるのではないか」という期待もありました。
わが国でインターベンションを専門とする医師は、狭心症を治療すると心不全にも良い影響を与えると信じて、積極的に冠動脈再建を行います。一方、心不全を専門とする医師は、不安定狭心症でない限り保存的治療を行う傾向にあるように思います。しかし「心不全合併狭心症」についても「狭心症合併心不全」についても、実は、ほとんど研究がなされていません。
まず、慢性心不全に冠動脈疾患が合併した場合とそうでない場合の予後に差はあるのでしょうか? これについては、いくつかの報告があります。例えばFelkerらは左室駆出率(EF)40%以下の心不全患者1921例を対象とした検討で、冠動脈に有意狭窄が多いほど、予後不良であることを示しています1)。しかし、介入による検討はほとんどありません。
Allmanらが行ったメタ解析では、心不全患者に虚血が証明された場合、血行再建術を行うと予後は著明に改善することが示されました(年間死亡率:3.2% vs. 16.0%、p<0.0001)2)。
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著者プロフィール
佐藤幸人(兵庫県立尼崎病院循環器部長)さとうゆきひと氏。 1987年京大卒。同大循環器内科入局、94年に京大大学院修了。同科病棟医長を経て、2004年から兵庫県立尼崎病院循環器内科に勤務。 07年より同科部長。研究テーマは心不全のバイオマーカーなど。

連載の紹介
佐藤幸人の「現場に活かす臨床研究」
専門の心不全だけでなく、臨床全般に興味がある。過疎地の病院での臨床経験もある。そんな佐藤氏の持論は、「医療とは患者、家族、医師、パラメディカル、メディア、企業などが皆で構成する『社会システム』だ」。最新の論文や学会報告を解説しつつ、臨床現場でそれらをどう活かすかを考える。
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