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臨床研修プラクティス:あなたが起こす医原病

注射針による神経損傷

2013/12/05
室賀絵里(桜ヶ丘中央病院皮膚科)

 ※この記事は「臨床研修プラクティス」(文光堂)2009年12月号の特集を転載したものです。

ケース
39歳女性。外来採血当番の研修医A君は右肘関節部のよく見える尺側の静脈を選び、穿刺した。その瞬間患者は電流が走るような激烈な痛みを感じ、A君に訴えた。針先の向きを変えて何度か刺し直したものの逆流はなく、採血を断念して針を抜いた。「先生、まだ痛むんですが。指先までしびれてるみたいで…」と訴える患者にA君は「まだ痛みますか?ほんとに?(心の声:針はもう抜いたのに大げさな人だなぁ。)変ですね。まあ様子みてください」と答えた。しかし数日経っても痛みは治まらず、右前腕全体が腫れてきた。近医で感染が疑われ抗生剤点滴で加療されたが、軽快しなかった。次第に指先が硬く動きにくくなり、物が持てなくなってきた。10ヵ月後、ペインクリニックにてCRPSと診断された。

注射針による神経損傷

 採血、点滴ルートの確保、静脈注射など「血管に注射針を刺す」という行為は最も基本的で日常的に行われている医療行為の一つである。これらを行ったときに生じる痛みの原因には、穿刺後の出血や血腫形成、穿刺部の感染等のほかに、神経損傷として(1)神経因性疼痛と(2)複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)がある。これらは医事紛争の対象になりやすく、十分な知識と注意が必要である。

1.神経因性疼痛
 侵害刺激が消失しているにもかかわらず、持続的に疼痛が続く状態。針を刺した瞬間に「しびれた」「電気が走るように痛い」「響いた」などと訴える場合が多い。刺した部位の痛みが針を抜いた後も残存し、また末梢(肘での穿刺なら前腕全体)にも痛みやしびれ感がある。熱感、発赤、腫脹などはみられない。針による神経炎、神経腫などが指摘されている。治療としてはペインクリニックや整形外科で疼痛コントロールや理学療法、手術療法を行う。

2.CRPS
 従来、反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy:RSD)等と呼ばれていた疾患で、先に述べた神経因性疼痛の症状、所見のほかに、浮腫、発汗障害、血流障害、皮膚温の異常などの自律神経症状が加わるのが特徴である。明らかな神経損傷が認められないものをtype1、認められるものをtype2と分類する。急性期には、発赤・腫脹などのため蜂窩織炎に似ることが多い。臨床所見や症状に比べて白血球数やCRPなどの炎症反応が不釣り合いに乏しい場合、抗菌薬による治療に反応しない場合、少し触れるだけで痛い(アロディニア)などの感覚異常を伴う場合などはCRPSも疑うべきである。自然軽快する場合もあるが、進行すれば皮膚・骨軟部組織の萎縮や関節拘縮、筋力低下をきたし、廃用肢となる例もある。ペインクリニックへのコンサルトによる早期の診断と治療が非常に重要である。

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