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Dr.西野の「良医となるための道標」

Translator(通訳者)としての心得

2014/06/16
西野徳之(総合南東北病院消化器センター長)

(イラスト:遊佐淳子)

 ムンテラっていう言葉があるだろう。本来の意味を知っているかい?

 「病状の説明をするってことですよね」

 なるほど、そう思っている医師は結構多い。医療界では看護師も普通に使う、立派な市民権を持った言葉だからね。でも、これはそもそもドイツ語なんだ。『Mund therapie』、言うなれば口による治療。説明をすることで患者の心を癒してあげる。治療の方法論が薬ではなく説明というわけだ。

 でも実はこれもウソで、元来こういう言葉はドイツ語には存在しないらしい。つまり、ムンテラは和製ドイツ語らしいんだ。だから、今後はインフォームド・コンセント(Informed consent;IC:医師の説明に納得して同意し、自らの意思で治療の選択をすること)と言った方がいいかもしれないね。

 さて、僕の今の患者への病状説明はどうだった?

 「とってもわかりやすかったです」

 そうだろう。僕は医療専門用語をほとんど使わない。説明はくどいかもしれないが、表現を変えて2回は説明しているからね。患者は「うんうん」って頷いていても案外理解していないことが多いんだよ。だから、2回説明することで半分でもわかってもらえればいいと思って説明しているんだ。

 人は聞くだけでは情報の10%程度、読むことで20%程度、見ながら聞くことで50%程度を覚えておくことができるという研究があるらしい。だから、ゆっくり丁寧に話しても、相手に100%伝わることを期待してはいけないんだよ。

 「僕でもわかったので、たぶん患者と家族の方は全部わかったと思います」

 君は医師なんだから、君の理解力が患者と同じレベルだと考えてはダメだよ! 医療は専門性の高い知識が要求されるので、一般の方には理解しにくい。ある意味、僕らがフランス語やロシア語を聞いているようなものかもしれない。それを医療の素人である患者が聞いてもきちんと理解できるようにわかりやすく説明するのが我々医師の役割でもあるのさ。今度僕が“ムンテラ”する時には、君自身が説明するならどんな説明をすべかを考えながら、聞くといいよ。

 医師が使う専門用語が患者の理解と判断の妨げとならないように、『「病院の言葉」を分かりやすくする提案』なるものが報告されている(国立国語研究所「病院の言葉」委員会)。インターネットで公開されているから、時間のある時に検索してみてごらん。たとえば、こんな例が紹介されている[(以下1より抜粋)]。

著者プロフィール

西野徳之(総合南東北病院〔福島県郡山市〕消化器センター長)●にしの・のりゆき氏。1987年自治医科大学卒。旭川医科大学第三内科、利尻島国保中央病院院長、市立根室病院内科医長などを経て2000年10月より現職。

連載の紹介

Dr.西野の「良医となるための道標」
今の臨床研修カリキュラムに足りないもの。それは医師としての心構えや倫理観、患者との接し方を学ぶことではないか? 研修医指導に情熱を傾けてきた著者が、「医師としてのあるべき姿」を熱く語りかける、『良医となるための100の道標』(日経BP)。その一部をご紹介します。
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