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Dr.西野の「良医となるための道標」

TeachingとCoachingの違い

2014/04/21
西野徳之(総合南東北病院消化器センター長)

 ティーチング(Teaching)とコーチング(Coaching)の違いってわかるよね?

 「なんとなくわかりますが、説明までは……」

 それじゃあ、質問を変えよう。野生の親ライオンは子供にどうやって狩りの仕方を教育するか知っているかい?

 「狩りをするところを見せるんじゃないですか?」

 それがティーチング。でも見せるだけでは、子供は狩りをできるようにはならないだろう。親ライオンは子供に実際に狩りをさせるんだよ。難易度を下げてね。親ライオンがシマウマの後ろ脚にかみついて走れなくしておいて、子ライオンがシマウマの喉笛に噛みつく。映画『ロスト・ワールド(ジュラシック・パークII)』の最後にも同じようなシーンが出てきたんだけど、見なかった?

 「あっ、それ! 覚えています」

 それがコーチング。親ライオンが子供に肉を与えれば、子供は刹那的に生き長らえることはできるけれど、自立はしない。もし親がハンターに撃たれて死んでしまったら、子供は自分で獲物をとることができなくて、飢えるしかないだろう。だから親は肉を与えるのではなく、獲物を得る方法を教えるのさ。自分で獲ることができるようになって、初めて立派なサバンナの住人として認められるというわけだ。

 でも、実際には野生のライオンは毎日肉を食べているわけではない。毎日獲物をとっていれば、獲物がいなくなる。狩られる方も、逃げ方がうまい。これもサバンナの理(ことわり)。弱肉強食ではあるけど、うまくバランスがとれているんだよね。神様はこの世界をよく創ったものだよ。

 ライオンって、よく見ると結構痩せているんだよな。肥満のライオンなんて見たことないだろう? 動物で飽食で肥満っていうのは人間ぐらいなんだよ。

 「豚とかフォアグラの鵞鳥なんかはどうですか?」

 おいおい、それを人間と比較しようと言うのかい? 太らせるのと自分で太るのは違うだろう?

 「あ、いえ、そうでは……」

 僕ら指導医の役目として大切なことは、君らが知らないことを自覚させることであって、君らが知らないことを教えることではない。そのあとの学習は君ら自身でする以外にないのさ。ちなみにそれをラーニング(Learning:学習)という。

 人から得た知識は失うのもまた早い。『悪銭身に付かず』って言うだろう? ちょっと意味が違うけどね。自分で努力して得た知識でなければ結局は身に付かないものさ。だから僕らは、君らが持っている知識や潜在能力を、質問を変えて引き出そうとしているんだ。

 「ありがとうございます」

 素直でよろしい。でも学習の基本は君たち自身の努力だよ。毎日必ず、三〇分でもいいから、その日の疑問をその日のうちに解消するために教科書を読んだ方がいい。さらに新聞を読む習慣も付けること。勉強も大切だけど、一般常識を持ち合わせていないと、『医者バカ』と言われるからね。これは自嘲的に使っても、人からは決して言われちゃいけないよ!

 「はい!」

著者プロフィール

西野徳之(総合南東北病院〔福島県郡山市〕消化器センター長)●にしの・のりゆき氏。1987年自治医科大学卒。旭川医科大学第三内科、利尻島国保中央病院院長、市立根室病院内科医長などを経て2000年10月より現職。

連載の紹介

Dr.西野の「良医となるための道標」
今の臨床研修カリキュラムに足りないもの。それは医師としての心構えや倫理観、患者との接し方を学ぶことではないか? 研修医指導に情熱を傾けてきた著者が、「医師としてのあるべき姿」を熱く語りかける、『良医となるための100の道標』(日経BP)。その一部をご紹介します。
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