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素晴らしい「迷い」へのアンサーソング

2017/10/12
鈴木 裕介(ハイズ)

 日経メディカルOnlineで「切って縫うニュース」を連載されている中山祐次郎先生に、専門医資格に関する記事で本コラムの「ポスト専門医キャリア迷子」を引用していただきました。素晴らしい「迷い」の中で、充実したミドルキャリアをつかもうとされている様子にとても刺激を受けました。今日はそのアンサーソング的な内容でお送りしたいと思います。

 我々医師のキャリアの特徴の1つは、「周りと同じように努力すること」が生存戦略として最適である時期が長いことといえます。医学部受験や国家試験、そして専門医資格や学位など、「みんなが目指すべきゴール」に邁進し、ただただ努力することで成功をつかむ。これを「努力報酬均衡モデル」と言います。しかし医師キャリアの後半になると、単なる努力だけでは報われにくくなってくると感じています。

キャリアには「レース」としての側面がある
 誤解を恐れずにいえば、医師に限らず職業人のキャリアには「出世競争」的な側面があります。

「同期で一番デキるやつは誰?」
「症例数を一番稼いでいるのは誰?」
「一番最初にアカデミックポストを得るのは誰?」

 臨床をしていても、こんなことが気になってしまう人も多いのではないでしょうか。研修医時代の私がまさにそうでした。医師として、自分が今相対的にどのくらいの位置にいるのか、不安だから確認したくて仕方がないのです。その不安な心理にさらに拍車をかけるのがSNSです。「あの人が准教授?」「あいつがハーバード!?」など、友人知人の仕事の充実ぶりが可視化されることによって、胸がざわついてしまいます。

 それはある意味、単一的な価値観の中で繰り広げられる「レース」です。他人と比較しながら自分の立ち位置に一喜一憂したり、そこから外れたものを「脱落者」と見なすことで心の安定を保とうとします。「競争に負けたくない」も「落ちぶれたくない」も本質的には同じ心理です。しかし、それをずっと続けていくことが本当に幸せなキャリアなのでしょうか?

自分にとっての「地位財」と「非地位財」とは
 ここで紹介したいのは経済学者のロバート・フランクが提唱した「地位財」と「非地位財」という言葉です。

 フランクは、職位や学歴などの社会的地位や名誉、年収や貯蓄、家やクルマなどの物的財など、周囲との比較で満足を得るものを「地位財」、自由や愛情、良好な環境や帰属意識など、相対比較とは関係なく幸せが得られるものを「非地位財」と定義しました。地位財がもたらす幸福は非地位財と比べて長続きしないということが明らかになっています。競争に勝つことで得られるものだけでは、我々は本質的に幸せになれません。余談ですが、「結婚」が地位財と非地位財の中間に分類されているのが示唆的で面白いところです。

 「年収7.5万ドル(当時は約750万円 )以上稼いでも、主観的幸福度の向上に寄与しなかった」という有名な研究があります。勝ち続けることだけでは本当の幸せや自信を得ることができない、ということに共感を示す方は多いのではないでしょうか。しかし、多くの人が地位財を得るための競争や努力に身を捧げているように感じます。それは、我々人間が、遺伝子を残すために「競争に勝ちたい!」という強い欲求をかき立てられるようにプログラムされているからです。

 このように、人間には、必ずしも幸福に直結しないものを過大評価し、追い求めてしまう傾向があります。これを、行動経済学の言葉で「フォーカシング・イリュージョン」と言います。我々は、キャリアにおいてもこのフォーカシング・イリュージョンに陥らないように意識をする必要があります。

著者プロフィール

鈴木裕介(ハイズ社)●すずき ゆうすけ氏。2008年高知大卒。一般内科診療やへき地医療に携わる傍ら、高知県庁内の地域医療支援機構にて広報や医師リクルート戦略、 医療者のメンタルヘルス支援などに従事。16年に国家資格キャリアコンサルティング技能士2級を取得。15年より現職。

連載の紹介

鈴木裕介の「キャリア迷子」に捧げる処方箋
昔に比べて価値観やキャリアが多様化し、「働き方」に悩む機会が増えてきました。医師でありながらこれまで1000件以上のキャリア相談を受けてきた鈴木裕介氏が、進むべき道を見失った「キャリア迷子」たちに送る「愛の処方箋」。様々なキャリア理論と実践に基づき、優しくレクチャーします。

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