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生活臨床と世に棲む患者

2015/12/16

 今回は、精緻な観察に基づいて発展してきた精神科の見立てと、日本で発展してきた「生活」を重視する考え方について紹介してみようと思います。

薬が乏しい時代にはじまった「生活臨床
 そもそも、今も使われている統合失調症の薬が「発見」されたのは、第2次世界大戦後なんですね。それまでの精神医療は、マラリア療法やインスリンショック療法や、ロボトミー手術などが試みられたこともあったものの、基本的には精緻な観察に基づいて予後を推定しながら寄り添う医療が行われていました。

 1950年代にクロルプロマジンが登場してから、治療は大きく様変わりしましたが、今でも精神病理学(精神的な症候学)については、それ以前のものを踏襲しています。

 当然、薬が乏しい時代にも、現在とほぼ同じ頻度で統合失調症の方はいたと思われます。病院にひたすら入院、あるいは私宅監置というような措置を取られていた悲しむべき過去もありますが、入院から地域の中で生活することで治療していこうという発想の転換を行ったグループがありました。それが、臺弘や江熊要一ら、群馬大学のグループでした。

 現在の診断基準(WHO-5、ICD-10)には、例えば「家族歴」という概念はほとんど含まれておらず、基本的に横断面の症状・徴候によって「診断」されます。詳しいことは省略しますが、生活臨床には「家族史的課題」という概念や「発病時課題」というような概念があり、その方が「家族の系譜」のなかでどういう宿命を背負っているか、というようなことまで考えながら治療や支援を考えていきます。また、病状が再燃する際には、「発病時課題」を繰り返すことが多い、というような観点も提示しています。

 いずれにしても、「生活」に焦点をあてて、治療を組み立てていこうとする努力は、今一度光が当たってよい考え方なのではないかな、と思います。

「世に棲む患者」にも通底する考え方が
 中井久夫の「世に棲む患者」(ちくま文庫、2011年)にも通底する考え方がふんだんに盛り込まれています。

 例えば、現在の精神科医療では、「働くこと」にかなり大きなウエートが置かれます。「症状」に注目するよりよっぽどよいことだと思うのですが、中井久夫は「世に棲む」、つまり社会に根を生やすことで、既に十分、社会復帰になっていると説きます。まさにこれは「生活」に焦点を当てた考え方ではないでしょうか。

 それ以外にもこの文庫本には、医療を提供する上でのヒントがたくさん含まれています。ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

狭いコミュニティでの「生きやすさ」と「生きづらさ」
 せのびぃは昨年、東京都の離島に代診医として伺いました。実は今年も、別の離島に行ってきました。そこで思ったことは、狭いコミュニティでの「生きやすさ」と「生きづらさ」があるな、ということでした。

著者プロフィール

毎日せのびぃ●市中病院での初期研修後、出身大学病院を経て、再度初期研修病院に戻った精神科医の卵。外見や語り口は穏やかで気さくな好青年。だが、胸の内には数々の野望が渦巻いている。今はそれらを封印し、高みを目指して修行に励む日々。

連載の紹介

日々是たぶん好日ナリ
毎日せのびぃ”が臨床の狭間で繰り出すつぶやきログ。生活の大部分を占める医療ネタのほか、将来のこと、趣味のこと、世間話など、フリーハンドで書いていきます。

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