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「困難にめげないハート」の作り方

2015/05/26
松本晴樹=厚生労働省医政局総務課・地域医療計画課

松本晴樹●厚生労働省医政局総務課/地域医療計画課。2006年千葉大学卒業。宮城県石巻赤十字病院での初期研修終了後、湘南鎌倉総合病院救急総合診療科の後期研修(1年)を経て厚生労働省に入省。母子保健、診療報酬などの担当を経て2014年4月より現職で地域医療構想、特定機能病院等を担当。

 前回は、私が今担当している病床の機能分化・連携の課題を解決するに当たり、ロジックを単純化し、その根拠となるデータを積み上げる話をしました。次に立ちはだかるのは、得られたロジックについて関係者の合意を形成することです。

 合意を形成するために、検討会でこれでもかこれでもかと議論します。各委員も、それぞれの背景となる団体で合意を取り付けてから検討会に臨まなくてはならないので、相当苦労したと思います。検討会の議論で足りないところは追加のデータを使ったり、個別に議論の場を設定したりして補います。この合意形成が、非常に苦労するところですが、我々の腕の見せ所でもあります。

 手を抜けば、合意形成は遠のきます。しかし、この合意形成のための奔走なくして、政策立案を語ることはおそらくできない。ここは絶対に省エネしてはいけないポイントです。我々は実感として、データ分析や意見・アイデアの生成、資料作成などの作業よりも、合意形成の方に時間を使っています。とてもストレスフルな日々ですが、関係者の間を何度も往復し、徐々にポイントが収れんしていく様を見ると、他の何にも代えがたい達成感があります。特に合意が形成された瞬間は、絶対に世の中が前進するという確信を関係者みんなが持つのではないでしょうか。

説得で求められるのは話すスキルより聞くスキル
 検討会を担当して感じるのは、合意形成や説得の場面で要求されるのが、話すスキルよりも聞くスキルであることです。具体的には、相手の言葉を勝手に解釈せず、定義に沿って聞き取る。定義やロジックが不明な点は端的に質問する。これを徹底します。正確に理解できていることが相手に伝わると、強い信頼関係が生まれます。

 よく聞いていると、話し相手の絶対に譲れないポイントが分かってきます。それ以外の事項では、合意を得ることができることが多々あります。また、譲れないポイントに見えても、ステークホルダー(利害関係者)同士がWin-Winになる解決策があることもあります。あとは、相手に刺さるようこちらの意見を整理できれば、合意達成できます。一連の話し合いでは、こちらが話せる時間は限られていますので、常に本質にフォーカスする必要があります。

 あとは、困難にめげないハートです。プロジェクトはトラブルやダメ出しの連続なので、これらを試練として受け止めます。心が折れないように自分をコントロールしながら、破壊的局面を最小化して味方を増やし、困難を克服します。

 この際、私が大事にしていることは、具体的には3点あります。

(1)自分がどのくらいのトラブル、ダメ出しでどのくらいめげるかを知る。
(2)めげた時にどうすれば、どのくらいの時間で回復できるかを知る。
(3)トラブルやダメ出しが出たら、どこがダメなのかをなるべく具体的に整理する。そのために、ダメ出しをした本人や周りにポイントを絞って聞く(上記の聞くスキルの応用)。

 そうすると、自分がトラブルやダメ出しをどのくらいコントロールできるか分かってくるので、そのキャパをオーバーしたら周りに助けを求め、キャパ内であれば周りに話を聞いてもらうといった対策をして、精神の安定を図りながら解決していきます。今回のプロジェクトでは、困難が生じる前から徹底的に議論する雰囲気をチームや検討会に作ることができました。このことは、困難を克服するために必須の信頼関係を提供してくれました。

「自分の職位が持っている権限が怖い」
 私が臨床医をしていたとき、誰かを説得したり、合意を形成しないと何かができないということはほとんどありませんでした(研修医は上司のチェックが必要ですが)。そういう意味では、現場にいたときは、大きな裁量権を持っていたともいえます。

 一方、医系技官となった今は、自分1人の裁量でできることは限られています。しかし誰かを説得したとき、みんなが合意に至ったときにできることは非常に大きいと感じます。もちろん、その分責任も大きいもの。今年1年生として入ってきた医系技官が、「自分の職位が持っている権限が怖い」というセリフを自然に口にしていました。私もそう思います。こういう感覚や謙虚さを常に持ち続けられるかどうかが、良い行政官になれるかどうかを決めるような気もします。

著者プロフィール

卒後ほぼ10年以内の医系技官がリレー形式で連載。所属部署は、医療政策、食品安全、放射線健康管理(環境省出向中)、健康教育(文部科学省出向中)、県の保健政策(自治体出向中)など。

連載の紹介

若手医師のお役所奮闘記
厚生労働省で行政官として働く医師「医系技官」の若手がリレーで連載。医療現場を働きやすくしたい、医療の政策などに関わることで自分を成長させたい、政策が作られる現場を見てみたい、国際社会に貢献したい——などなど、様々な思いを抱えながら霞ヶ関で働く医師の悲喜こもごもを、若手目線で緩く綴っていきます。

この連載のバックナンバー

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