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好ましい短い小品、映画長きがゆえに貴からず
薬害訴訟専門弁護士vs 金物商『おとなのけんか』(2011年)

2015/10/19
冨田和巳(こども心身医療研究所)

 2時間以上の上映が当たり前で、水増し映画の多い昨今。『おとなのけんか』は、昔の平均的長さである90分にも満たない80分の小品でいながら、十分に楽しませてくれる今時珍しい映画。58年前、上映時間と同じ時間で劇が進行するのでも話題になった『十二人の怒れる男』と同じ形式で、カメラも室内からほとんど出ない。「面白い作品は1時間半でも十分!」と改めて言いたくなる。

 さらに最近の映画は、最後に映画に関わった者の名前を全員タイトルに出し、5分以上掛けて見せるから、冒頭はタイトルなしでいきなり観客に重要な場面を見せる場合も多い。私は、「状況をよく飲み込めない観客にこの手法はよくない」と本欄でしばしば苦情を呈してきた。幸いにも本作は、昔のように最初に短いタイトルで出演者と監督、脚本、音楽など主だった関係者の名を見せる。その背景には、物語の発端になる「こどものけんか」を遠くから映し、やがて本題の「おとなのけんか」に入っていく。極めて分かりやすい始まりで、これも嬉しくなる。

 昔は、ほとんどの映画が本作のような2~3分のタイトルで始まっていた。字体や音楽、時に風景描写に工夫をし、これから始まる映画への期待感を持たせる。歌劇の幕が上がるまでの序曲のようなものであった。この映画でもタイトルからくる期待感は本編で裏切られず、小品ながら俳優の巧さもあり、「映画はこれでなければならない!」と久しぶりに思わせた。

 タイトルバックで見せた子どものけんかを発端とし、映画は両方の親がお互いに話し合う経過を描いていく。日本人には少し「なぬ?」と思う違和感をもつ言動もあるが、4人の男女のそれぞれの性格、職業などによって言動が誇張され、舞台劇らしい台詞で、まさに「おとなのけんか」になっていく。原題は虐殺、修羅場の意である「Carnage」。誇張した表現で悲喜劇らしさを表現しているのに対し、邦題は少し「まじめ」過ぎるのかも…。

子どものけんかに親が出る悲喜劇
 クリストフ・ヴァルツ扮する加害者の父親は弁護士で、仕事中毒。話し合いの最中にも、クライアントの製薬会社と訴訟の打ち合わせをしばしば携帯電話で行う現代的設定。ケイト・ウィンスレット扮するその妻も仕事をしており、共働きの、いわばエリート夫婦である。ジョン・C・ライリー扮する被害者側の父親は、金物商を営む極めて庶民的なおじさん。ジョディ・フォスター扮する妻は本も書き、美術に趣味があり、市民運動もしている、少々嫌味のある人物。この4人が、話の成り行きでだんだんと本音を出し合い、夫婦同士から同性同士と組み合わせが変わりながら、丁々発止の凄まじいまでの言い合いが80分の間に繰り広げられていく。

 最初は大人しそうで常識的だったのに、やがて豹変する妻を演じるウィンスレットと、最初から癖のある役が得意のフォスターの2人の演技が特に注目に値する。終わり近くになり、「この混沌とした状況(修羅場)をどのように終わらせるのか?」と少々気になりだした頃、意外な幕切れで「なるほど」と微笑みが出る。ただし、このまま「The End」と字幕が出れば最高だったのに、残念ながら最近の映画だから、最後にもう一度長い長いタイトルも付くので「ブルータス、お前もか!」である。

 昔の映画は、「終」「完」「The End」「Fin」「Fine」といった字で終わり、場内が明るくなる。そのまま感動を胸に抱き場外に出た。昔も最後にタイトルのある映画はあったが、もちろん1分程度で終わった。

 ちなみに、この長いエンドタイトルの始まりはジョージ・ルーカス監督による『スターウォーズ』(1977年)と言われている。彼は、制作に関わった人々に感謝の気持ちを込めて、全員の名を出したという。その後、米国の組合事情も絡んでこれが定着した。今は日本を含む世界中がそれを真似、異常な長さのエンドタイトルである。観客は製作に関わった全員の名前などに全く関心はないので、見終わった快い気持ちを持って映画館から出て行きたい。それを座席に5分以上も座らせ続けるのは精神的暴力でなかろうか?映画は観客のためにある基本を忘れてはならない!

著者プロフィール

冨田和巳氏(こども心身医療研究所所長/大阪総合保育大学児童保育学部教授)●とみたかずみ氏。1967年和歌山県立医大卒。小学生の頃から映画を観つづけ、映画鑑賞が最大の趣味。『小児心身医学の臨床』(診断と治療社)、『小児心療内科読本』(医学書院)などでも映画を扱ったコラムを執筆した。

連載の紹介

冨田和巳の「映画で考える医療と社会」
今や、DVDや映画専用チャンネルなど、映画は自宅で簡単に鑑賞できる時代です。これまで映画館に行く時間がとれなかった映画好きの医師に向けて、医療・医師を中心とした作品を紹介します。映画評論家風のコメントではなく、臨床医の立場から、映画を通して見た医療と社会について意見/異見を綴ります。

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