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司法解剖こぼれ話―もう一つの医療崩壊

2008/05/02

 4月27日付の朝日新聞に、4月23日から25日かけて長崎市で開かれた日本法医学会の、東京大学大学院の伊藤貴子特別研究員(法医学)らのグループの研究報告が報じられていました。それによると、医療関連死が疑われてなされた司法解剖の結果について、6割以上の遺族で結果を知るまでに2年以上かかっており、その情報開示の遅れから医療訴訟につながっていることが推測されるとのことです。

 私の身近でもそのようなケースをよく経験します。ある患者は術後の大量出血と電解質異常で心肺停止となって亡くなりました。その後、司法解剖に付されましたが、遺族はいつまでたっても捜査当局から解剖所見を得ることができず、結局民事訴訟を提起しました。控訴審になっても、解剖所見の開示なしで隔靴掻痒の闘いを余儀なくされています。

 捜査当局にすれば、司法解剖の所見は重要な「捜査の秘密」であり、捜査の密行性を確保するためには、起訴・不起訴等の処分が終わるまで遺族といえども蚊帳の外にするのはやむを得ないということでしょう。

 また、別のケースでは、医師が手術した部位と離れた場所に穿孔が生じ、重態に陥ったところ、家族は危篤になった頃から、警察に相談するなど不信感が強く、死亡後に異状死の届出を行いました。

 警察は「必ずしも司法解剖の必要もないだろうが、遺族の不信感が非常に強いことを考慮して司法解剖をしておきましょう」という結論になりました。このようなケースも、遺族とは逆に、医師の方も結論待ちのまま寝覚めの悪い長い日々を過ごすことになります。

 このように、医療訴訟などの医療紛争に関わる私のような人間から見ていても、吉田謙一教授(東京大学法医学)が記事で「司法解剖の結果を早く開示することは、類似事故の再発予防など社会的にも極めて重要なのに、貴重な情報が医療現場に還元されずに埋もれ、紛争を促進する結果さえ招いている」とコメントしている現況に日々遭遇して「どうにもならんなあ」とただひたすらぼやかざるを得ないのです。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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