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腕はいいはずなのにもったいない

2019/07/30

 先日、親しい友人から電話がかかってきた。彼は、ある大学病院で腹部のCT、MRI検査を受けたところ、膵尾部に腫瘍が見つかり、手術を検討している。本人に全然自覚症状はなく、元気に生活しているという。病院側は「見つかってよかった。ガイドラインに従えば手術しかない」との見立てらしい。

 友人は、開口一番、こう言った。「大学病院ってとこは、どうしてそれぞれの医者が勝手なことを言うんだい?」

 「どうした?」と聞くと、次のような話をしてくれた。

 友人は、膵臓の検査を受け、病棟のベッドに寝て、検査をした内科の主治医が説明に来るのを待っていた。事前に「検査が終わったら説明をするので奥さんも一緒に聞いてもらった方がいい」と言われていた。

 友人夫妻が何時間も待っていると、別の医師がやって来て、「検査は無事終了しました。後日、外科医の診察時に検査結果を含めて、詳しくご説明します」と告げられた。「今日、主治医の先生からの説明はないのですか」と聞くと「これでおしまいです」。友人だけが病室に泊まることになっており、奥さんは、「おかしいなぁ、待ちぼうけだったのかしら」と首を傾げながら、自宅に帰った。すると、しばらくして内科の主治医がベッドサイドに現れ、「あれっ、奥さんも一緒じゃなかったんですか」と言ったのだとか。

 友人は、こう語る。

 「こっちは、ひょっとしたら生命に関わる事態になるんじゃないかと不安でたまらない。ずっと待ってたんだ。なんで医者同士、最低限のコミュニケーションもできないの? 大切な説明でしょ。どうして余計なことして、混乱させるの。結局、自宅に帰っていた妻をもう一度呼んでね、一から説明を受けたんだ。大学病院ってあの程度なのかなぁ」

 私は、「残念ながら大学病院では、そういうことが時々起こる。彼らは悪気があってそうしているわけじゃないんだ。病気の治療に関しては、徹底的に研究し、一生懸命やっている。だけど、患者さんの気持ちとか、生活背景への配慮とか、ともすれば二の次になりやすい。治療技術は高いのに、もったいないことだ」と答えた。

著者プロフィール

色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。

連載の紹介

色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。

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