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「身体に異常なし」と言われた患者を誰が救う?(2)
病気に人生を壊されないマネジメントが必要だ

2017/12/13
石原藤樹(北品川藤クリニック・院長)

 前回の続きです。突如として猛烈な胸痛に襲われ、就業もままならなくなったAさん(30歳代男性)が、市中総合病院で様々な診療科をたらい回しにされたものの原因が判明せず、途方に暮れて私のクリニックを訪れたというお話でした。

事例の続き―退職のやむなきに至ったが病状は快方へ
 私はAさんの話を聞いた上で、これまであまり注目されていなかったホルモン系に加え、圧痛点も念入りに調べました。その結果、内分泌系に特に異常なく、圧痛点も慢性疼痛に典型的な所見は得られなかったので、身体症状症の可能性が高まったと判断しました。ただ、専門家の診断を受けるべきだと考えたので、たとえ数カ月先になったとしても大学病院の専門外来の予約を取るようAさんに伝えました。

 次に取りかかったのは痛みのコントロールで、まず試したNSAIDsが無効だったので、神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(商品名リリカ)を使いました。プレガバリンを徐々に増量したところ、1日300mgで痛みはかなり軽減されました。少なくともそれまでのすべての治療の中で、Aさんに最も効果があったのはプレガバリンでした。

 また、Aさんが最も気にしていた、職場に対する罪悪感の軽減についても手を打ちました。私は身体症状症か慢性疼痛の可能性が高いという話をして、その病名の診断書と、休職の手続きに必要な書類を書きました。もちろん、この時点での診断は確実なものではありません。しかし、専門医の受診は数カ月後になるわけで、それまで宙ぶらりんな格好でAさんが罪悪感を抱えていることは正しくないと考えたのです。

 それから3カ月後にAさんは大学病院の専門外来を受診し、身体症状症と診断されました。それと同じ月に勤務先の休職期間が満了し、Aさんは復職の見込みが立たないということで退職に至りました。退職自体は不幸なことでしたが、それをきっかけにAさんは「会社に行かなければ」という義務感から解放され、症状がより安定するようになりました。

 そして、1年間の治療を経てプレガバリンの減量・離脱に成功し、今は経過観察のみで普通に日常生活を送れる状態です。新たな仕事を探しながら、前向きに人生と向き合っています。

 さて、皆さんはここまでの事例を読んで、何を考えるでしょうか。

なぜ、身体に異常がないと診断が遅れるのか?
 当たり前の話ですが、どのような医師でも「患者さんを的確に診断したい」という気持ちを同じように持っています。しかし、自分の専門分野においては熱心でも、いったんそこから外れることが明らかになると、一気に冷めることが多いようです。

 また、精神神経科や心療内科の医師は、うつ病や統合失調症などと診断が付けば専門性の高い診療に移れるのですが、患者さんの訴えが痛みなどの身体症状である場合には、あまり明確な方針を打ち出せないことが多いように思います。

 さらに、私の知っているケースでは、慢性疲労症候群や身体症状症などが疑われる場合、それに対応できる医師は週に1回しか外来に出ておらず、受診予約は早くて半年後になるという大学病院がありました。これでは患者さんは診断の付かないまま半年間も宙ぶらりんの状態で放置されることになってしまいます。

著者プロフィール

いしはら ふじき氏●信州大学医学部医学科、同大学院卒。医学博士。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、1998年より六号通り診療所(東京都渋谷区)所長。2015年10月より北品川藤クリニック(東京都品川区)院長。著書に『誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方』『健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな!』。趣味は演劇とマジック。

連載の紹介

医学と看護の交差点でケアを考える
クリニックで診る疾患、症状は多様で、治療がゴールにならない=「ケア領域」の患者さんが多くいます。医学だけでは太刀打ちできない中、医師が看護師などの他の医療従事者と力を合わせ、同じ方向を向いて患者さんと向き合う機会は、実際にはそれほど多くないのではないでしょうか。本連載では、内科開業医である著者が医学と看護の交差点に立ち、過去の知見の分析と臨床知から、医療の形を見直します。

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