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「目指すべき老衰」を阻むつらい訴えに対応する(12)せん妄
せん妄による突拍子もない言動にどう向き合う?

2019/12/13
平方 眞(愛和病院)

 本連載では、書籍『看取りの技術』の内容の一部を、加筆修正してご紹介します。今回は、がん患者さんのせん妄への対応法について述べます。

がん末期のせん妄の多くは不可逆的
 がん末期では、せん妄は非常に高い頻度で見られます。せん妄とは、意識障害を主体とした精神神経症状の総称です。がん患者さんの場合、あらゆる時期において出現しますが、特に体力が低下した末期には、程度の差はありますが、ほぼ必発と言ってもいいくらい出現頻度の高い症状です。

 集中力や判断力が鈍り、妄想、幻視や錯視などの知覚障害が起こり、周りから見るとおかしなことを言ったりしたりする状態になります。例えば以前、「○○さんが持ってきてくれたお土産がそこにあったのに、風呂に行っている間にごっそりなくなった」と言った患者さんがいました。現実には、誰かが訪ねてきたわけでも、お土産を置いていったわけでもありません。夢の中や頭の中での出来事が正しく認識できない状態になり、実際に自分の目で見たらあるはずのものがないので、誰かが持っていってしまったと思ったようです。

 せん妄はあらゆる時期に起こり得ますが、急激に体力が低下したときなど、変化があるときには発現頻度が高くなります。今まで歩いて自分で身の回りのことができていたのに動けなくなってしまった場合などでは、せん妄によって動けないことを認識できず、動けるに違いないと思ってしまい転倒するなどの危険もあります。

 せん妄には「可逆的なせん妄」と「不可逆的なせん妄」があるといわれています。体力があるときに起こるせん妄は、環境の変化に慣れることや適切な薬物治療で元に戻ることも多いのですが、終末期のせん妄は「昏睡の入り口」を示していることが多く、元に戻せないものが多くなります。比較的しっかりしていた人にせん妄が発現するようになると、残り時間が週単位、あるいは日単位に近付いていると考えるサインの1つととらえています。

症状に振り回される家族も
 高齢化が進み、認知症を持つがん患者が増えてきたため、せん妄と予後の関係を判断するのが難しいケースも増えています。「せん妄が出てきたので、残りの時間はかなり短いと思います」と家族に説明したものの、実は認知症が進行したことによるせん妄で、その後もおかしなことは言うけれど長期間元気に過ごせているという人もいます。

 せん妄状態になると、突拍子もない言動をする人が多く、患者さんの一言一言を真に受けて家族が振り回されたり、「こんな人だとは思わなかった」「ついに本性を現した」と誤解したりする家族もいます。認識力や思考力が低下して起きていること、本人が悪いのではなくて病気がいけないのだということを、きちんと説明して認識してもらう必要があります。「あんなにしっかりしていたのに、認知症になってしまった」とショックを受ける家族もいるので、「認知症と似ていますがそうではありません。体力が減っていくときには多くの人に起きる症状なんです」と説明しています。たくさんの人に起こることであり、特別なことではないと知ってもらうことも、家族の安心を増やす効果があります。

著者プロフィール

1990年山梨医科大学(現山梨大学)医学部卒業。武蔵野赤十字病院、町立厚岸病院、自治医科大学血液内科を経て、1994年に諏訪中央病院に着任。96年頃から訪問を中心に緩和ケアを開始し、98年に緩和ケア担当医長に就任。2009年から愛和病院副院長。著書に『看取りの技術』(日経BP)がある。

連載の紹介

平方眞の「看取りの技術」
国内に数少ない緩和ケア専門病院で副院長を務める筆者が、これまで1500人以上の患者を看取ってきた経験を基に、患者・家族をより良い死へと導くための技を紹介します。癌などの基礎疾患を抱えていても「最期は老衰を目指す」というのが、筆者の診療スタンス。そのノウハウとは——。
著書『看取りの技術』好評販売中

 これまで1500人以上の患者を看取ってきた著者が、患者に納得いく最期を迎えてもらうための“平方流”看取り方を公開。迫り来る「多死社会」を意味あるものにするため、患者を「より良く看取る」ための技と心得を、終末期医療に携わるすべての医療者に向けて伝授する。(平方 眞著、日経BP社、3240円税込)

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