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ロコモティブシンドローム特集2015

【診療アップデート】ロコモの関連疾患を診る
変形性膝関節症の最新事情──保存療法を中心に
東京医科歯科大学医学部整形外科教授 宗田 大

2015/12/21

変形性膝関節症(膝OA)においては、保存療法を続けながら膝痛と向き合う患者が大多数であるとされている。また、患者数が非常に多い一方で、その治療法についてはまだ議論が尽きない。本稿では、われわれが行っている保存療法を中心に詳細を紹介する。

はじめに

 日本人の2500万人、約5人に1人はX線を撮ると膝OAがあるとされる。また、日常的に膝痛を感じている人は1000万人で、整形外科の外来を訪れる4人に1人は膝の痛みのためとの報告もある。しかし、2013年に人工膝関節置換術(TKA)を受けた患者数は8万人を超える程度であり、膝に痛みがあってもTKAを受けずに過ごす患者が圧倒的多数というのが現実である。大多数の患者は保存療法を続けながら一生膝痛と付き合っていくのである。

薬物療法は痛み止めが主な目的

 膝OAの保存療法には薬物療法と非薬物療法がある。薬物療法のうち、内服薬は主に膝の痛みを和らげるために用いられる。膝OAにおいて痛みが生じる機序の詳細はまだ完全には解明されていないものの、関節軟骨の磨耗・消失に伴い膝関節の荷重能力が低下して、膝関節への荷重時に疼痛が生じること、および関節軟骨の磨耗により生じた遊離軟骨により関節内に生じる滑膜の炎症反応に伴い痛みを感じること、の2つの機序が考えられている。

 滑膜炎部位で亢進している各種の炎症性サイトカインや軟骨基質の分解酵素などを抑制するため、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がその消炎鎮痛作用を期待して一般的に用いられてきた。NSAIDsはその副作用として消化管障害が広く知られており、長期投与における腎機能障害も指摘されている。長期的に漫然と使用するのではなく、痛みが強い際に頓服で使用することが基本と考える。

 炎症の代表的メディエーターであるシクロオキシゲナーゼ(Cox)のうち、Cox-1は恒常的に存在する生理活性を有するが、Cox-2は炎症時などに生じる誘導性の物質である。近年開発されたCox-2阻害薬は、誘導性のCox-2を選択的に抑制できるため、より安全性が高いと考えられている。私は強い炎症症状を示す膝OA患者の症状が改善してきた場合、または欠席できない外出予定に無理を承知で対応する場合など、急な痛みに即座に対応することが難しいと予想される際には、あらかじめ長時間作用性のCox-2阻害薬や1日2錠のCox-2阻害薬を朝1錠ずつ内服させるようにしている。滑膜炎が持続したり繰り返したりすれば、膝の関節軟骨や半月板の破壊は進む一方である。関節の炎症や腫脹を抑制するために、痛みが強くなくても、いわば“先取り”として抗炎症薬の内服が必要と考える。

 膝OAの薬物療法においては、待望の根本的な治療薬(disease modifying osteoarthritis drug:DMORD)は実用化されていないものの、近年、多種類の麻薬系鎮痛薬が登場し、疼痛治療の選択肢は豊富になってきた。副作用の頻度とその重篤さを考え合わせると、麻薬系鎮痛薬は比較的安全であるとの見方もできる。副作用に留意しながら、患者の病状に合わせて薬剤選択を行いたい。

 もう1つの薬物療法である外用薬については、その副作用のほとんどが皮膚障害である。副作用を考慮すれば、膝関節の疼痛症状を抑える薬物療法として外用薬の方が安全であるともいえるだろう。皮膚から吸収される外用薬で一定の消炎鎮痛効果が得られるということは、膝OAの疼痛症状において、関節表面および周囲を起点とする痛みが主体であることを示唆していると考えられる。今後さらに薬効の高い外用薬の開発が期待される。

難治性膝OA患者の軟骨は既に消失している

 柔軟な関節機能を維持するカギとなる関節軟骨は、一度摩耗すると再生しないと考えられている。従って、関節軟骨の摩耗をできるだけ未然に防ぐ治療が必要である。保険診療において唯一その効果を有する治療法が、ヒアルロン酸(HA)の関節内注射である。

 HA注射は、我が国では膝OAの発症早期から日常診療で比較的広く行われており、有用であるとの報告も多い。しかし、ヒアルロン酸は関節内に注射した後、長期にわたり関節内にとどまるわけではなく、最終的には関節外へと吸収されてしまう。疼痛症状と関節軟骨の磨耗程度は完全には相関しておらず、HA注射によって痛みが落ち着いたとしても、必ずしも軟骨の摩耗自体を予防できているわけではない点に注意が必要である。

 なお、HA注射によって軟骨の磨耗を予防するためには、定期的かつ長期間にわたる十分なHA注射が必要と考えられる。このため、我が国とは医療制度の異なる海外で作成された国際関節症学会(Osteoarthritis Research Society International:OARSI)といった専門学会の治療ガイドラインにおいて、HA注射の位置付けが比較的低いのは無理からぬことと思われる。

 なお、長期にわたり膝OAの痛みに悩まされている患者の膝関節X線像やMRI像を見ると、既に軟骨組織が完全に消失し、骨棘形成や軟骨下骨に至る変形が観察されるケースが多い。膝OAの痛みが難治性になった場合には、既に一部の軟骨は消失していると考えられる。関節鏡像と単純X線像を比べると、X線像では軟骨摩耗の状態が1~2段階軽く判断される。もちろん、関節軟骨が消失した後、何も治療法が無いわけではない。痛みを和らげることに徹した様々な治療を進めていくことになる。

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