日経メディカルのロゴ画像

パンデミックに挑む

ポケモンGOに伴う飛沫感染・蚊媒介感染リスク

2016/07/27
勝田吉彰(関西福祉大学)

 ポケモンGOが社会現象となっている。マスメディアにも、ネット空間にも、ポケモンGOの周辺事象の情報があふれる。そんな中、筆者はソーシャルネットワークサービス(SNS)に投稿された2枚の写真を見てギョッとした。写真は、渡航医学的2大リスクであるマスギャザリング蚊媒介疾患とがぴったりと重なっていることを示していた。飛沫感染する感染症や、デング熱、ジカ熱などの蚊媒介感染症が持ち込まれたなら、瞬く間に感染が拡大するリスクが否定できないのだ。

 メディアには、スマホ片手に違反切符を切られてしまったのが何例とか、車で追突した例、階段からころげ落ちた例など、賑やかに報じられている。しかし、ポケモンGOがもたらす可能性がある災厄は、こうした外傷関連にとどまらない。

新型複雑系マスギャザリングと言えるリスク
 私がギョッとした1つ目の写真は、通勤電車並みの密度の中で、スマホを手に新宿御苑で押し合いへし合いする男女の画像だ1)。「レアなモンスターが現れた」という情報が駆け巡った結果の光景らしい。このゲームの性格上、スマホ画面上でお目当てのモンスターが現れるまで待って捕獲するという作業が終了すれば、群衆はバラバラに散ってゆく。ここでなんらかの飛沫感染する感染症が持ち込まれたら、思わぬ感染拡大を招くのは、容易に想像できるところだ。

 また、新宿御苑と言えば、蚊媒介感染症と無縁ではない。2年前にデング熱の国内感染が拡大した際、園内で採取された蚊からデングウイルスが検出され、長いこと閉園となったことは記憶に新しい。

 一定期間、同じ場所に多くの人々が集まる様をいうマスギャザリング。世界的に有名なのが、メッカの巡礼だ。マスギャザリングにおいて感染症が拡大した事例には、事欠かない。最近では、米国の本家ディズニーランドで、持ち込まれた麻疹の感染が広がり、カルフォルニア州全体に拡大してしまった。

 こうしたマスギャザリングの感染症が、さらに質的にも発展しそうなのがポケモンGOだ。このゲームでは、あちこちに設定された「ポケストップ」という場所でモンスターボールなどのアイテムやモンスターの卵などが手に入る。また「ジム」と呼ばれる場所では、ポケモン同士を戦わせることができる2)。すなわち、人間の密集状態は、レアなモンスター出没情報が伝わった場所やポケストップ、ジムといった場所でワッとゲリラ的に発生し、それはノーマークだった無名な場所や予想されなかった場所でも起こり得る。

 メッカやディズニーランドといったあらかじめ高密度が予想される場所においては、ある程度の対策は取り得る。例えば、メッカ周辺でサウジアラビア保健当局はなかなか良い仕事をしている。だが、無名な場所や予想外の場所に集まった群衆が離合集散を繰り返し、また別の無名な場所や予想外の場所に出現するという「新型複雑系マスギャザリング」は手ごわい。つまり、飛沫感染の新興感染症にとっては「絶好の乗物」が、提供されてしまったのではないか、との懸念があるのだ。

デング、ジカ、チクングニヤのハイリスク地点に突っ込むリスク
 2つ目の写真は、7月22日からツイッター上でものすごい勢いで2.7万回ほど拡散された投稿にあった。いわく「うちの近くのポケストップは雑草だらけの荒れ果てた公園でいつもは人っ子ひとりいないんです。それが今日は朝から小学生が集まって心配した保護者もついてきて、なんだか人が集まるようになったからって近所のジジイが草抜きはじめてみんなゴミ拾ったりして笑い声が溢れてて、すごくないですかこれ!(原文ママ)」ということなのだ。

 読者の皆さんなら、これが何を意味するか想像できるだろう。これまで手入れの行き届いていなかった(恐らくは蚊対策などされず放置されていた)真夏の草むらに、真っ昼間に子供と妊娠可能年齢保護者たちが集い、笑い声を溢らしながらゴミ拾いをし、一定時間以上の滞在をしているという状況が図らずも描かれているのだ。

 ここで蚊の習性をおさらいしておきたい。これから吸血しようとする対象の周囲(誘因範囲という)を求めて飛び回る探索型のイエカに対して、デング、ジカ、チクングニヤのウイルスを媒介するヒトスジシマカは、草むらなど一定範囲にとどまり対象動物が近づいてくるのを待つ待ち伏せ型だ3)。活動時間帯は主に昼間。つまり蚊の習性にぴったり合致したハイリスク地にハイリスク群が集ってしまうということが、やはり世界中で発生してしまう。

 事の本質はこういった状況に突っ込む人々が、交通事故を起こしたり階段から転落したりしてしまうほどに、ゲームに集中しているということだ。メッカの巡礼者よりも、ディズニーランドの観光客よりも、はるかに身の回りに目が届かなくなっている。蚊媒介疾患や飛沫感染する疾患の啓発活動を行ったとして、肝心なときに思い出してくれるのか。とても心もとない状況だ。

 ポケモンGOなるものを発明した人類は、感染症という敵に盛大に塩を送ってしまったのではないか……。そんな危惧が杞憂に終わることを願っているが、さて。

■参考情報 
1)【ヤバイ】『ポケモンGO』で新宿御苑が地獄絵図! 大量の「ピカチュウ」とレアポケ「ハクリュー」発見でトレーナー達が公園内に殺到
2)大人が昼から街ゾロゾロ、「ポケモンGO」巧妙な仕掛け(日経新聞)
3)今おさえておくべき蚊のキホンを聞いてきた(びわ湖国際医療フォーラム)

この記事を読んでいる人におすすめ