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第29回 日本医学会総会2015関西

【柱20】移行医療(transitional medicine)
小児期医療から成人期医療にどう引き継ぐか
滋賀医科大学医学部呼吸循環器内科教授・堀江 稔氏に聞く

2014/11/14

―― まず、「移行医療」とは?

 小児期に発症した慢性疾患を抱えたまま、成人になる患者さんが増えています。その小児期から成人期への引き継ぎの時期における医療のことです。

―― なぜ今、移行医療が注目されているのでしょうか。

 医療の進歩により、それまで小児期に失われていた多くの命が救えるようになったからです。ただ、「救うことができた」ということは、子どもたち本人は病気と毎日向き合いながら、大人になっていくということです。すなわち、治療を何十年にもわたって継続する“フォローアップ”が必要になります。それは、子どもから大人になる一人ひとりの命の治療歴なのです。

―― 移行医療は、患者さんの人格形成の時期にかかわるのですね。

 治療を受けながら同年代の人々と同じような生活を確立し、社会に出て行くというのは並大抵のことではありません。それでも、子どもたちは幼児期、学齢期、思春期などを経ながら、心身ともに前向きに成長します。いずれ、進学、就職、結婚、出産などのイベントも訪れ、ライフスタイルも確立されていきます。それらに正面から向かいあうには、病気をコントロールしたり、本人が努力するのはもちろんのこと、医療者はじめ、家族、周囲のあたたかい支援が必要になります。

―― 本人と周囲が二人三脚で、困難を解決していくのですね。

 現在、そして将来直面するさまざまな問題を家族や子どもが予測し、状況に適応しながら乗り越えていく力が必要になります。それはまず、幼稚園や学校に入学・通学できるか、というところからの一歩ずつの歩みになるでしょう。医療者や専門家の助言も得ながら一つひとつの成長のステップに対応し、乗り越えて行くことができれば、本人や家族の大きな自信と喜びにつながります。

―― その過程で医療も“移行”するということですね。

 成人期を迎えるにあたって、小児期医療から成人期医療へ“引き継ぎ”を図る必要が生じます。これはまさに患者さんが受ける医療の形態が変わるということを意味しており、この引き継ぎをスムーズかつギャップなく行うことが、その後の治療の成否を左右するといっても過言ではありません。例えば、てんかんの場合、それまで小児科で診ていたものを、成人になってからは神経内科、脳外科、精神科、内科のどの科が引き継ぐか、あるいは小児科で継続するかといった選択肢があるのです。

―― 移行がスムーズに行われるために重要なことは。

 まず、患者や家族への組織的な支援が必要です。そして、その支援がすべての患者や家族に開かれたものであるべきです。社会全体も患者、家族を受け入れ認める姿勢があること、患者、家族は恐れずにその社会に積極的に参加し、人々と情報共有を行なうことが期待されます。患者や家族が、望ましいQOL(生活の質)を維持できる環境を、市民が共に考え構築していくことが大切です。

―― なかでも、医療者の姿勢はどうあるべきでしょうか。

 医療者は日頃からこのような慢性小児疾患について知識や経験を蓄積し、専門家として正確な診断、適切な治療を施すことはもちろんですが、それらと同じくらい重要なのは、患者や家族への正直な情報提供の姿勢です。それがあってはじめて、真に医療者と患者がチームを組み、長年の病気と闘い、かつ、病とつきあっていくことができるでしょう。

 また、医療体制の視点では、小児科医と成人診療科医の連携、遺伝カウンセリングの充実などが目指すべきところでしょう。

―― 学術講演では、どのような方々においでいただきたいですか。

 移行医療は、社会全体の関与が必要な領域です。当日の講演では、現状の問題点の指摘のほか、改善に向けた討論がされる予定です。医療従事者は言うまでもなく、患者、ご家族、学校関係の方々、障害を持つ児童にかかわる方々、就労支援、民間サポート活動に従事されている方々などにも、ぜひおいでいただきたいと思います。

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