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第29回 日本医学会総会2015関西

【柱6】環境変化と健康
国境を越えた健康被害にどう対応するか
関西医科大学消化器肝臓内科教授・岡崎和一先生に聞く

2014/11/02

―― 医学会総会で地球環境の変化を議論する背景は何でしょうか。

 日本はかつて高度経済成長期に、深刻な公害被害を経験しましたが、それらは懸命の努力で克服され、今日では環境は大幅に改善されてきました。しかし近年新たに、二酸化炭素の排出による地球温暖化や、オゾン層破壊による紫外線の増加、新興国の産業活動が招いた大気汚染など、かつての地域規模の公害よりもはるかにスケールの大きな地球規模の環境リスクが生まれています。このように国境を越えて人の健康被害をもたらす事態に対応できる医療が国際的に求められているからです。

―― では国内で早急に検討すべき課題は何でしょうか。

 まずは大気汚染の問題です。ディーゼル車の排気ガスに含まれる微粒子が引き起こす呼吸器の炎症や、工場の煙が太陽の紫外線によって化学変化し、人の目や喉の粘膜に被害をもたらす光化学オキシダントが問題となっています。さらに、中国大陸から国境を越えて飛来する微粒子のPM2.5による大気汚染も深刻です。

 それから夏季の熱中症も厄介な問題です。地球温暖化の影響とみられる夏の気温上昇に加えて、高齢化や節電対策などが影響し合って、毎年多くの健康被害が出ています。

 これらの課題に関して、総会のシンポジウムで現場の医師から実態と対策について報告が行われます。なお、このシンポジウムは一般の市民の皆さんにも公開されますので、多くの方に聴講していただきたいと思います。

―― 環境変化と健康被害を学問的に結び付ける研究にはどのようなものがあるのでしょう。

 京都大学では、1970年代から東南アジアに住む2万人以上の市民の協力を得てコホート研究を行っています。コホート研究とは、特定の要因にさらされた人とそうでない人を長期間にわたって追跡調査して疾病の発症率を比較し、その要因が人の健康に与える影響の度合いを割り出す研究です。それらの方々の血液、尿、母乳などの生体資料や食事などのサンプルを長期にわたり集めてきました。この分析によって環境汚染の影響を明らかにでき、今後の防止に役立てることができるはずです。

 総会ではこの他にもコンピュータを用いたサンプルの分析事例や、高山市の日赤病院の竹中勝信先生のバンクを活用した環境汚染への取組などについても発表します。

―― 東日本大震災で起きた福島の放射能汚染はさらに深刻な問題です。

 もちろんこの件についても取り上げます。放射線医学の専門家の先生、広島・長崎の被害を60年以上にわたって研究してきた放射線影響研究所、そして原発事故により放射能汚染にさらされた福島県からも先生を招き、事故の影響を最新の情報をもとに報告します。

 また、放射線による影響ばかりではなく、長期にわたる避難所生活がもたらす健康被害や、災害によるPTSDについての現状も報告します。

―― 自然環境ばかりではなく、社会環境や経済環境による医療への影響はどうでしょう。

 バブル崩壊後の20年、日本社会では国民の経済格差が大きく広がりました。その格差が新たに「健康格差」を引き起こしており、これが医療界で憂慮すべき問題となっています。総会ではこのテーマでもシンポジウムを設け、経済格差の指標であるジニ係数の推移と健康問題との関連を探ることにしています。このほか、健康格差と社会保障のあり方など、公共政策にまで踏みこんだ議論を行う予定です。

 これらのテーマはいずれも国民の健康を預かる医療界にとって深刻な課題です。多くの先生方にご来聴いただき、議論を共有していただければ幸いです。

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