日経メディカルのロゴ画像

第29回 日本医学会総会2015関西

【柱5】リハビリテーションのこれから
健康寿命の延伸は「攻めるリハビリ」から
大阪医科大学リハビリテーション医学教授・佐浦隆一氏に聞く

2014/11/01

―― 「リハビリ」が、従来とは変わって来ているようです。

 リハビリはこれまで「後治療」と呼ばれることが多くありました。これの意味するところは、リハビリは整形外科領域では手術「後」の治療法であり、脳卒中においても急性期の治療「後」に行われるものといった認識でした。しかし、現在ではリハビリは、治療開始と同時、あるいは治療に先立って行われていくものであるとの認識に大きく変わりました。

―― 変わってきた要因はなんでしょうか。

 一つは治療技術の進化に伴い、病気や後遺症を抱えながら生きなければならない人たちが増えてきたことです。命は助かったけれども、不具合(障害)は残り、生活に不自由している。また、高齢化の進行により、病気ではないが、足腰が弱る、飲み込む力が弱るなど、あるいは記憶力や判断力が低下するなど、加齢に伴う身体、精神機能の低下により、生活に不自由が生じている人たちが増えています。そんな人たちをカバーしていくためのリハビリが求められているのです。

 もう一つ、少子超高齢化社会を迎え、単に平均余命の延伸ではなく、「健康寿命(日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間)」の延伸という考え方が広く浸透してきました。可能な限り健康で、自立して暮らせる時間を伸ばすためには、リハビリがどうしても必要、不可欠なものとなります。

―― 目指すところが変わってきたということですね。

 最近では、胃がんや肺がんなど外科手術の術後でも、手術をした当日、あるいは翌日から、離床を目的に積極的にリハビリを開始します。特に、開胸、開腹手術を行う現場では、手術前からの呼吸リハビリ、体力強化などの術前リハビリ介入も行われるようになってきています。つまり、手術後の状況を想定して、呼吸筋の筋力強化、排痰や呼吸法の指導、起き上がり、立ち上がりなどの動作練習を手術前から行うのです。リハビリの開始時期が早ければ早いほど、また、適切な術前リハビリが実施されればされるほど、術後の様々な合併症を起こすリスクが低下して、また、術後の身体機能の回復も早くなります。

 このように、従来の寝たきりをすこしずつ動かして回復を期待する「守るリハビリ」から、障害が生じる前に、また、障害が生じてもできるだけ早いうちから、積極的に最大限に生活機能を回復させ、さらには、寝たきりを予防する、健康寿命を延ばすといったことまでを目指した「攻めるリハビリ」へと、リハビリそのものが変わってきているのです。

―― ロボット技術の進化も注目を集めています。

 リハビリは診療報酬上、運動器、脳血管、心臓・大血管と呼吸器、その他に大きく分けられます。運動器リハビリは、骨関節や筋肉、神経、血管など運動器に障害のある患者さんに対するリハビリ介入の方法です。まずは、立てなかったり歩けなかったりする患者さんの移動を補助する道具としてロボット技術が応用されます。また、脳血管リハビリや脊髄損傷に対するリハビリの領域では、最近の研究から、患者さんの動きに応じて、リハビリロボットを使って手や足を補助的に動かすことにより、筋肉や関節の動き、神経の刺激が脳や脊髄の中枢に伝えられて、障害された神経細胞の周囲の組織が活性化されたり、障害された神経領域を代替する部分がでてきたりすることがわかってきました。今後の研究の一層の発展が待たれるところです。

―― 研究の進歩には著しいものがありますね。

 脳血管リハビリのなかで、中枢性運動麻痺(脳卒中後の麻痺)治療に関する分野では、新しい治療法が次々に生まれています。従来、脳卒中のリハビリといえば、残存機能や残存能力を最大限引き出すことが目標であり、リハビリの限界でした。しかし、最近では、脳卒中後の麻痺そのものの改善、回復をめざすリハビリが研究、実施されるようになってきました。

 例えば、指を動かすには、指を伸ばす筋力と曲げる筋力が使われます。麻痺によって指を曲げる方の力を抜くことができない(これを痙縮といいます)患者さんに対して、ボツリヌス毒素を使って、あえて指を曲げる筋を麻痺させ、指を伸ばす筋の動きを刺激、活性化させて、指を動かす機能回復を目指します。さらに、指を曲げる筋の動きを抑制するために磁気刺激を用いたり、指を伸ばす筋の動きを刺激するために電気刺激や神経筋促通法、強制的に動作を行わせる運動療法を加えるなど、従来にはまったくなかった発想でリハビリが行われるようになってきました。

―― 心臓リハビリもこれまでとは変わってきているのでしょうか。

 慢性心不全の患者さんを運動させると、症状は悪化するから、運動などもってのほか、薬を飲んでじっとしていなさい、というのがこれまでの古い考え方でした。ところが最近は、患者さんの状態や心肺機能に応じて適切に調節された運動であれば、むしろ、心臓の負担を軽減できることがわかってきました。足や手を動かせば、筋肉の動きがポンプ機能を果たして、全身の血液循環をサポートしてくれるのです。心臓リハビリは心不全の症状を改善する有効な治療法なのです。

―― こうした新しい考え方、最前線の研究成果は多くの人に聴いてもらう必要がありますね。

 患者さんや障害をもつ方を抱えている家族の皆さんには、これからのリハビリの必要性、重要性、そして、無限の可能性に期待していただく意味でも、ぜひ、リハビリ関連の講演やシンポジウム、発表を聞いて頂きたいと思います。とはいえ、聴講者としてもっとも期待しているのが、医師そのものです。

 「リハビリでもしましょうか?」や「リハビリしかありませんね」といった「でも、しか」リハビリは時代遅れです。患者さんのメリットを考えて、リハビリは可能な限り早い時期から始める必要があります。手術前からリハビリ介入すると手術後の合併症を減らして、患者さんにはもちろんのこと、余分な医療支出も減らし、在院日数を短縮することができるといった、病院にも優しい医療ができます。治らないと考えられていた麻痺が治るかもしれません。

 寝たきりを減らし健康寿命を延伸させ、少子超高齢化を迎える日本を救うことができる、リハビリの最大の有用性と無限の可能性をぜひ知って頂きたいと思います。

この記事を読んでいる人におすすめ