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第29回 日本医学会総会2015関西

【柱1】トランスレーション科学の振興
異分野の話を聞いて枠から半歩踏み出そう
大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科教授・金倉 譲氏に聞く

2014/10/28

―― “トランスレーション科学”とは聞きなれない言葉ですが。

 トランスレーション(translation)は「橋渡し」という意味です。医学の世界では日々、多くの基礎研究が行われています。その成果を臨床の現場で検証した後、日常の医療に応用しています。この基礎から日常医療応用への、一連のプロセスにおける科学を“トランスレーション科学”と呼びます。

―― 例として、どのような研究が挙げられますか。

 医学の領域では現在、分子生物学、ゲノム医学などの研究が飛躍的に進んでいます。その成果を活かして薬の候補となる化学物質を見つける「スクリーニング」、高い治療効果を持ちながら、副作用の軽減も期待される「抗体医薬」の研究などが挙げられます。

―― 「橋渡し」には、産学の連携も必要なのではないでしょうか。

 新薬の開発を例に挙げれば、一連の研究には膨大なコストと、治験などの作業プロセスが必要です。このプロセスのすべてを大学だけで行うことは不可能です。大学は基礎研究で有望なシーズを見つけることに集中し、見つかったシーズを産業界が引き継いで、有効な医薬品に仕上げる連携体制が望ましいのです。

―― その体制について、具体的にお聞かせください。

 創薬の治験を行うには医師はじめ、薬学研究者、看護師、統計の専門家、リサーチ全体のコーディネーターなど多様な人材が必要です。こうした人材をまとめる産学連携の組織としてアカデミックリサーチオーガナイゼーション(academic research organization)があります。トランスレーション研究を進めるためには、この体制を整えることが不可欠です。近畿圏内では京都大学、大阪大学、先端医療センターの3拠点が、厚生労働省からこの組織を設置することを認可されています。

―― では、トランスレーション科学の具体的な成果について教えてください。

 よく知られたものとしては、世界初のサイボーグ型ロボット“HAL”があります。“HAL”は身体機能を改善、補助するロボットで、身体の不自由な高齢者をアシストし、介護スタッフをサポートすることが期待されています。

 もう一つの例では、肺がんに対する分子標的薬があります。肺がんのメカニズムを遺伝子レベルで調べて原因となる遺伝子を見つけだし、その遺伝子に特異的に効く薬を選び、治療に用いる方法です。

―― 今後、トランスレーション科学はどんどん発展しそうですね。

 実は基礎研究でシーズが見つかったとしても、日本国内では最後のステップに至るまでのハードルが高く、かつ幾重もあり、それらをクリアして認可までこぎつけるのは困難です。そのため、製薬メーカーでは新薬が開発されると、まず欧米で認可を得ようとする傾向もみられます。その結果、同じ薬が、日本より欧米の方が早く実用化され、ドラッグラグが生じています。今後、より効率的に薬が創られ、認められていくことが日本の課題です。この課題の克服の可否が、将来の日本の医療を左右することといっても過言ではありません。

―― 将来に向けて、研究に関連する人材は豊富にいるのでしょうか。

 まずは、トランスレーション科学そのものに関する教育を強化し、人材を育成することが急がれます。基礎・臨床研究の両方の専門性を高めると同時に、「橋渡し」の多様性に対応することができれば、日本のトランスレーション科学における総合力が確実に高められます。

―― 学術講演では、どのような方々においでいただきたいですか。

 トランスレーション科学は、まさに「分野横断的」な研究です。自分の属する領域とは別の、異分野の方々の話をぜひ、トランスレーション科学を支えてくれる方々、研究者、医師に聞いていただきたいと思います。また、ベンチャーキャピタルなどファンドにかかわる方々にもおいでいただき、日本発の新しい医療開発が秘める可能性に触れていただけたらと思います。

―― 若い世代へのメッセージなど、ございましたら

 これからの医療人に求められるのは分野横断的な大きな視点です。「世界の人の役に立つには、どうすればよいのか」くらいのスケールの問題意識を持つ視野の大きな医療人に育ってほしい。そのために、まず自分の枠から半歩だけでもよいですから、思いきって外に踏み出すきっかけを、このセッションから掴んでくれることを期待します。

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