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糖尿病
監修・植木浩二郎(国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長)

2017/09/15

アブストラクト

  • 糖尿病は代謝異常が長期に及ぶことでさまざまな合併症を発症する。血糖、体重、血圧、血清脂質などを良好な状態に維持し、細小血管合併症や動脈硬化性疾患である大血管合併症の発症・進展を阻止し、「健康な人と変わらない日常生活の質の維持、健康な人と変わらない寿命の確保」を実現することが治療の目標となる。
  • 最近では、糖尿病では癌のリスクが増加することや、アルツハイマー病のリスクが増加することも明らかになってきており、古典的な合併症に加えてこれらの合併にも注意を要する。また、糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(NASH)との関連も注目されている。NASHの約1/3は進行性で肝硬変や肝癌の要因になるといわれており、特にインスリン抵抗性の強い糖尿病患者においてはNAFLD/NASHのチェックも重要である。
  • 診断基準は2010年に改訂され、初回検査で血糖値とHbA1cを同時に測定し、どちらも糖尿病型であれば、初回検査だけで糖尿病と診断してよい。
  • 2型糖尿病は、インスリン分泌低下の遺伝素因に加えて、過食や運動不足、また肥満に伴うインスリン抵抗性といった環境因子が病態に深く関与しているため、治療は食事療法と運動療法が基本となり、原則としてこれらを2~3カ月続けても目標とする血糖コントロールに達しない場合に薬物療法を開始する。ただし、口渇・多飲・多尿などの典型的な糖尿病症状を呈している場合には、ただちに薬物療法を開始するか、専門医に紹介する。

疾患概念

 糖尿病とは、インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。

 本疾患群に共通する病態はインスリン作用の不足であり、その影響は糖代謝にとどまらず、脂質や蛋白質など、ほとんどすべての代謝系に異常が及ぶ。インスリン作用が不足する機序としては、膵臓ランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌の低下と、インスリンが作用する臓器におけるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性の増大)の2つがある。

 1型糖尿病は、おもに自己免疫により膵β細胞の破壊が生じ、インスリンの分泌が低下することによって発症し、多くはインスリンの補充なしでは生命の維持ができないインスリン依存状態に陥る。一方、2型糖尿病の発症には、遺伝因子と環境因子の両者が関与している。ただし、これら2つの要因が発症に関与する程度は、症例ごとに異なる。

 症状は代謝異常の程度によってさまざまで、軽度であれば一般に無症状であり、これがおもに2型糖尿病における診断の遅れや治療の中断につながる大きな要因になっている。一方、1型糖尿病や進行した2型糖尿病などにおいてインスリン作用の不足が高度な場合は著しい高血糖状態やケトアシドーシスを来し、適切な医療的介入が行われなければ意識障害や昏睡といった重篤な症状を来たし死に至る可能性もある。

 本疾患は代謝異常が長期間に及ぶことによって細小血管が障害され、特有の合併症を発症する。なかでも、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症は三大合併症といわれる。糖尿病の本態である代謝異常とこれら合併症に対して適切な治療が行われなければ、合併症を原因とする下肢の壊疽、失明、透析導入など重篤な状態に至る。

 さらに、全身の大血管の粥状硬化は耐糖能異常の段階から進行し始めており、糖尿病患者における脳卒中、虚血性心疾患、末梢血管疾患など動脈硬化性疾患の発症リスクを高めている。

分類

 糖尿病の成因から、1型、2型、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病の4つに分類されている。

■1型

おもに自己免疫的な機序によって膵β細胞が破壊された結果、インスリン欠乏が生じて発症する糖尿病で、通常はインスリンの絶対的な欠乏に至る。HLA(組織適合抗原)などの遺伝因子にウイルス感染などの環境因子が加わって発症するとされている。

 膵島関連自己抗体が存在し、自己免疫的機序で膵β細胞の破壊に至ったと考えられるものを自己免疫性(1A)、自己抗体などが証明されずにインスリン依存状態に陥るものを特発性(1B)と区別している。

 典型的には若年者に急激に発症するが、あらゆる年齢層で発症し得る。また、特に進行が急激な「劇症1型糖尿病」、膵島関連自己抗体が陽性だがインスリン依存状態に陥るまでに数年以上の経過をたどる「緩徐進行1型糖尿病」の存在も知られている。

■2型

 インスリン分泌の障害やインスリン抵抗性を来す遺伝因子に過食や運動不足、肥満といった環境因子が加わり、インスリン作用が不足したために生じる糖尿病と定義される。インスリン分泌低下とインスリン感受性低下の両方が発症に関与しているが、その関与の程度は患者ごとに異なる。インスリン分泌能は1型糖尿病のように高度に枯渇していない場合が多く、生存のためにインスリン注射が必要となることは少ない。

 多くは中年以降に発症するが、近年では小児や若年者の患者も増加している。家族歴が濃厚な患者も多い。

■その他特定の型

 まず「A.遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの」と「B. 他の疾患、条件に伴うもの」に二分される。前者は単一の遺伝子の異常によって糖尿病が発症することが判明しているもので、後者は膵疾患や薬物使用、ウイルス感染など、従来は二次性糖尿病と呼ばれていたものが該当する。

 近年の遺伝子技術の進歩により、原因遺伝子も多くみつかるようになっており、Aはさらに、「(1)膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常」と「(2)インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常」に二分されている。(1)はインスリン遺伝子の異常や、若年発症成人型糖尿病(MODY)と呼ばれる転写因子遺伝子の異常による糖尿病などが含まれる。

■妊娠糖尿病

 妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常で、臨床的に糖尿病と診断できる症例を除いたものと定義される。したがって、妊娠中に診断された明らかな糖尿病やもともと糖尿病と診断されていた患者が妊娠した場合(糖尿病合併妊娠)は、除外される。妊娠糖尿病は、軽度の糖代謝異常ではあるが適切な血糖コントロールがなされなければ母児ともに障害のリスクが高くなることが明らかとなり、特別な配慮が必要である。出産後は、耐糖能が改善することが多いが、糖尿病のハイリスク者であるため、定期的なフォローが望ましい。

疫学、発症率、患者数

■1型

 わが国における小児の発症率は世界的にみても低く、1.5~2.5/10万人・年とされている。小児1型糖尿病の有病率は1.5~2.0/1万人で、すべての糖尿病患者の1~2%を占めるにとどまる。日本では発症率に地域差は認められていない。

 一方、世界的にみると発症率は国により大きく異なる。わが国を含めたアジア諸国の発症率は非常に低いが、北欧諸国は高率で、国際糖尿病連盟(IDF)による『Diabetes Atlas第6版』(2013年)によれば、最も発症率が高いフィンランドでは57.6/10万人・年に及ぶ。遺伝因子と環境因子の両方が関与しているとされているが、その理由はまだ明らかではない。

 小児1型糖尿病の年間発症率は世界的に毎年3%程度で増加している。その原因として小児期肥満との関連を指摘する報告もある。

■2型

 2012年の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる者」は2007年の890万人から60万人増えて950万人に、また「糖尿病の可能性を否定できない者」は1320万人から若干減少して1100万人になった。これらを合計すると、2012年時点で糖尿病との関連が疑われる人は、わが国で2050万人に上る。

 2015年の国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、男性19.5%、女性9.2%であったことが報告されている(図1)。

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