少し前に、ある医局の研究会で話をしました。冒頭で、「コミュニケーションに自信がない人」と呼びかけたら、なんと会場の7割が手を挙げました。
私が特に強い危機感を抱いているのは40~50歳代のベテラン層の医師です。現場を支える屋台骨となっている年代ですが、自身の医療技術に絶対の自信があったり、自分流の物事の進め方や方法論に強くこだわる、という方が多い年代でもあります。コミュニケーション能力なしに、この自信やこだわりがもしも崩れるようなことがあったら、大変なことになるのではと心配になるほどです。
以前、そんな50歳代の医師に「スタッフが冷たい」と相談されました。話をよく聞いてみると、その先生は、スタッフに自分からはまったく挨拶をしていませんでした。
自分の市場価値を意識する
医師のキャリアプラン作りは、どんな考え方で進めていけば良いのでしょうか。臨床医を目指す場合を例に、説明します。
まず、自分の臨床医としての市場価値を意識しなければなりません。そのためには、「医局の中で求められる医師像」「病院が求める医師像」を知る必要があります。これはまさに転職コンサルタントや転職エージェントの視点です。
では臨床医に今の病院が求めるものとは何か。キーワードはやはり「チーム医療」であり、そこで医師に求められるのはコミュニケーション能力です。「将来は開業してマイペースに仕事をしよう」と思っている方もいるでしょうが、コミュニケーション能力は開業医と勤務医を問わず必要です。
チームのメンバーに自分の意図がうまく伝わらないことは多いものです。よく、医師がムンテラで素人相手に専門用語を連発してしまう話を聞きますが、これなどはコミュニケーション能力不足の典型的な例です。当の先生は「ちゃんと説明した」と思っているのですが、相手にはまったく伝わっていないのです。
本来、チーム医療で医師にもっとも期待される役割は、看護師などコメディカルの人々に対するリーダーシップです。その延長線上には当然、マネジメント能力が要求される場面が出てきます。いずれもコミュニケーション能力なしには考えられません。
ですから医師を目指す人は若いころから、医療現場ではコミュニケーション能力やマネジメント能力が重要スキルだということを知っておくべきです。知っていれば、その分野の本を読んだり、セミナーに出たり、先輩に聞いたり、自ずと向上心が働きますから。
しかし、医学部に入るため、医師になるためと、こつこつ勉強してきて、あまり人付き合いをしてこなかった方に多いのですが、「一言聞けばすぐ分かるのに」と思うようなことをなかなか聞かないんです。結果として、職場で孤立していき、「あの先生ちょっと変わってるよね」と言われるようになり、やがては周囲もあえてアドバイスしたり文句を言ったりしない「腫れ物」状態が定着してしまいます。
最低限これだけは身につけたい
コミュニケーションについては、最低限の基礎知識を身につけておきたいものです。例えば、ある程度以上の規模の企業では通常、社員に階層別教育を施します。新人研修に始まり、3年次研修、係長前のリーダー研修、マネジャーになればマネジャー研修、といった感じです。
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著者プロフィール
勝又健一(Dプラス代表取締役)●リクルートで企業の求人に携わった後、メディカル・プリンシプルで民間医局の立ち上げに参画。医師の転職支援をしながら「DOCTOR'S MAGAZINE」の編集長を務める。2008年4月に独立。

連載の紹介
医師のためのヒューマンスキル塾
「いま求められる医師」になるには—。医師の転職・採用の専門家として、日々医師と病院の間を奔走する筆者が、医療現場ではなかなか学ぶ機会がないヒューマンスキルの磨き方や考え方を伝授します。