日経メディカルのロゴ画像

Anti Thrombotic Therapy.2016

【末梢動脈疾患 エキスパートインタビュー】
長期的にも有効で、より低侵襲な治療を行うのが理想
東京逓信病院 外科医長 北川 剛氏

2010/09/08

東京逓信病院外科医長の北川剛氏

 PAD末梢動脈疾患)に対する治療では、薬物療法、血管内治療、外科治療のそれぞれのメリットを考慮して、患者さんに最も適した治療法を選択することが重要となる。そこで、東京逓信病院外科医長の北川剛氏(写真)に、PAD患者の動向や診断・治療の実際についてうかがった(日経メディカル別冊)。

―― 最初に、下肢PAD患者さんの受診状況についてお話しください。

北川 千代田区医師会の先生方からは、間歇性跛行の症状がある方、あるいはABI検査で異常値がみられた方のうち、さらに詳しい検査が必要な場合や専門の治療が必要な場合に、ご紹介いただいています。

 最近、糖尿病領域ではリスクファクターの評価において、ABI検査の重要性が認識されるようになってきました。実際、当院の糖尿病代謝内科では、ほぼ全例にABIと頸動脈エコーによる動脈硬化の評価を行っていますので、糖尿病代謝内科などから、下肢血管病変の検査を依頼されるケースも増えています。

 また、当院の皮膚科は難治性の潰瘍病変を積極的に治療していますので、それらの患者さんの血管病変を評価することもあります。さらに、当院の透析施設と周辺の透析クリニックから、足病変を有する患者さんの治療を依頼されることもあります。
 
―― 下肢PADの診断は、どのようになさっていますか。

北川 最寄り駅から当院までは約600mで、軽い上り坂になっていますので、最初に「駅から病院までの間で、何回ぐらい休みましたか」と聞いて、症状と重症度の目安にしています。

 診察では、まず両足の皮膚状態、皮膚温、爪、毛の生え方などを観察した後に、両側の鼠径部、膝窩部、そして足関節レベルでの拍動を触診して、鼠径靱帯より近位部の病変か遠位部の病変かを診断します。その段階で早期の血管内治療を必要とするか否かは、ほぼ予測がつきます。

―― 触診では、どのような点がポイントになるのでしょうか。

北川 太っていると触知しにくい場合もありますが、鼠径部はきちんと触診すれば、ほとんどの患者さんで拍動を触れることができます。左右差は、両足を同時に触診すると比較的分かりやすいと思います。

 経験的に、膝窩動脈がしっかり触れる患者さんは、大切断になる可能性が低いという印象がありますので、膝窩動脈が触れるか否かは、極めて重要な所見だと考えています。

―― 検査は、どのようになさっていますか。

北川 ABIは初診時に必ず測定します。また、私はエコー(Duplex scan)を重視しています。初診時に全例に行うことは困難ですが、特に重症虚血で、1日でも早く治療を開始すべきと思われる患者さんには、病変の範囲、程度を把握するために初診時に必ず行うようにしています。血管内治療を行う患者さんでも、病変部位を観察します。Duplex scanを使うと、狭窄や石灰化の程度、病変周囲部の状態などがよく分かります。

 このDuplex scanは、超音波のBモードによる形態診断と、パルスドップラーモードによる機能診断を同時に行うことが可能な検査機器です。すなわち、Bモードではプラークや石灰化など血管壁の性状を観察することができます。一方、パルスドップラーモードでは、血流速度と血流波形を観察することができます。

 例えば、ABI検査やMRIなどの画像診断で軽い病変と診断しても、強い症状がみられる患者さんがいます。こうした患者さんをDuplex scanで検査すると、左右の血流波形あるいは血流速度が大きく異なっている場合があり、画像診断でみえる以上に血流が低下していることが分かります。したがって、パルスドップラーモードによる評価は、MRIやCTなどによる診断を補完して、より正確な評価ができる方法だと考えています。

 下肢の動脈は体表から浅い部位を走行しており、下肢にはエコー波の妨げとなるものがないので、鼠径靭帯以下の動脈は、ほとんどすべてが観察可能です。また、最近発売されている装置にはカラードップラーがついており、血流シグナルをBモードの上に乗せていますので、狭窄の診断が非常に容易になっています。

―― 画像診断は、どのようになさっていますか。

北川 従来は、IVDSA(経静脈的血管造影)を行っていましたが、最近はCTA(CTアンギオ)で十分高精細な画像が得られるようになってきました。しかし、石灰化が強いとIVDSAやCTAでは鮮明な画像が得られない場合が多く、そのような症例にはMRAを使っています。MRAは石灰化の影響を受けず、造影剤を併用すれば膝下動脈まで診断可能であることから最近では第一選択としています。

 ただし、血管内治療あるいは手術を選択する場合には、石灰化の程度を把握することが治療法を決定する上で非常に重要ですので、CTも必ず撮ります。また、血管造影はかなり侵襲の強い検査ですから、治療当日まで行いません。MRA、CTA、エコーで得られた情報をもとに治療計画を立て、治療当日に血管造影をして、病変を確認して治療を行うパターンがほとんどです。

―― LCS(腰部脊柱管狭窄症)との鑑別は、どのようになさっていますか。

北川 症状とMRAなどによる画像検査の結果に相違がある場合は、念のためにLCSについてもMRIで評価し、整形外科の診断を仰ぐ場合もあります。高齢者では両疾患を合併している方がかなりいるという印象です。血管内治療が成功したにもかかわらず、症状の改善が予想していたほどではなく、後からLCSの存在が分かると、患者さんの信頼も失いますので、あらかじめLCS合併の有無を確認することも大事だと思います。

―― 次に、治療の実際についてお話しください。

北川 当院外科を受診されたPAD新患患者に対する治療の内訳をみますと、平成16年は15例中10例が薬物療法でしたが、平成20年は21例中18例、平成21年では13例中11例と、最近は薬物療法の割合が増えており、間歇性跛行患者(重症虚血肢以外)のほとんどが薬物療法だけで治療されています(図1)。

この記事を読んでいる人におすすめ