
三木市立三木市民病院循環器科の粟野孝次郎氏
末梢動脈疾患(PAD)は全身の動脈硬化性疾患の一部分症であり、冠動脈疾患との合併率が非常に高いため、最近では循環器領域においても注目されている。そこで、三木市立三木市民病院循環器科の粟野孝次郎氏(写真)に、PAD患者の動向、診断や薬物療法、血管内治療の実際について解説をお願いした。
―― 最初に、下肢PADの患者さんの動向について、お聞かせください。
粟野 毎月10人前後が新たにPADと診断されています。受診のきっかけはさまざまで、自覚症状を訴えて直接受診する方、開業医の先生方からの紹介で受診する方、さらに心疾患で受診した患者さんにPADが見つかるケースもあります。PADに対しては、まず薬物療法を行い、適応があれば血管内治療あるいは血管外科でバイパス術を行っています。
当科で行っている血管内治療の例数は、冠動脈が年間約300例、末梢血管は年間50~60例で、そのうち約30例が下肢PADに対する血管内治療です。下肢PADに対する血管内治療の施行数は、ここ数年間ほぼ横ばいで、急激に増えている印象はありません。
また、冠動脈疾患患者の約3割は、下肢PADを合併していると言われていますが、当施設での印象もほぼ同じです。ただし、その多くが薬物療法の対象で、血管内治療の適応になる患者さんは、それほど多くはありません。
―― 次に、初診時における診断のポイントなどについてお聞かせください。
粟野 当科の初診患者さんに対しては、全員にABIの測定を行っています。PADの診断では、問診や足背動脈等の触診、下肢の視診も大切ですが、ABI検査が最も有効だと考えています。
ABIで異常が認められた場合は、MRAと血管エコー検査を行います。MRAは、造影剤なしでもある程度行える検査で、簡便な検査だと考えています(図1)。造影CTも極めて有効な検査ですが、造影剤が必要となるため主にMRA検査で確定診断を行っています。下肢PADとの鑑別が必要な疾患として、腰部脊柱管狭窄症がありますが、ABIとMRAを行えば、ほぼ鑑別できます。