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Anti Thrombotic Therapy.2016

【末梢動脈疾患 エキスパートインタビュー】
PADに対するバイパス術と血管内治療の選択では、個々の患者さんの病態と手術侵襲を考慮して決断する
東宝塚さとう病院 血管外科部長 渋谷卓氏

2009/11/18

東宝塚さとう病院血管外科部長の渋谷卓氏

 近年、増加傾向を示すPAD末梢動脈疾患)は、冠動脈疾患や脳血管障害を高率に合併し、QOLだけでなく生命予後に大きくかかわる疾患であり、早期発見・早期治療の重要性が指摘されている。そこで、東宝塚さとう病院血管外科部長の渋谷卓氏(写真)に、PAD患者の動向、診断や薬物療法、外科的治療の実際についてうかがった(日経メディカル別冊)。

―― 最初に、PADの患者さんの動向についてお話しください。

渋谷 当院は心臓、血管系の専門病院ですから、患者さんは冠動脈疾患をもつ人がほとんどです。その中で、治療の必要なPADを合併している人は約3割です。その約半数は運動療法などの生活指導と薬物療法、残りの半数は血管内治療やバイパス術による積極的治療の対象になります。PADの患者数は、循環器科の先生方が注目され始めてから増えた面もありますが、生活習慣の欧米化や高齢化によって動脈硬化性疾患が増えていることも背景にあります。高血圧、高脂血症、糖尿病、CKD(慢性腎臓病)などの生活習慣病は、冠動脈疾患だけでなく、PADの原因ともなっています。

―― PADの疑いのみで紹介されてくる患者さんも多いのでしょうか。

渋谷 血管外科に紹介されてくる患者さんのほとんどは、PADが疑われる患者さんですが、PADの疑いで紹介されてきた患者さんの約半数に、治療が必要な冠動脈疾患がみつかります。

―― PADの診断と検査では、どのようなことを重視されていますか。

渋谷 最初に気付くきっかけとして最も多いのは、足が痛い、あるいは歩くスピードが遅い、といった患者さん自身の自覚症状です。そこで、問診が非常に重要になります。多くの患者さんは「いつから、どういう動きをしたら、どの部分が、痛くなるのか」整理しないで訴えますから、こちらから整理して、正確に症状を把握することが大切です。また、触診や視診で下肢が冷たい、下肢の皮膚が青白い、といった第一印象を得ることも重要です。

 末梢血管は内臓などの血管と違って、体表から触診できますから、こうした有利な部分を十分に活用した診察を行うことも大事です。PADの触診や視診はズボンと靴下を脱いでもらってベッドに寝かせる、という手間のかかる診察で非常に時間がかかりますが、それを怠ってはいけないと思います。

 検査ではABIが非常に有用ですが、ABI値が正常だからといって、PADではないと安易に即断するのではなく、疑いが残っている場合は、他の検査も併用します。たとえば、機能検査としては、ドップラーで血流音を聞く検査、エコーで血流をみる検査を行います。画像診断では、CTAの有用性が高いと考えています。MRIは非侵襲的で被曝はなく、造影剤も使わないで済む検査ですが、CTAの方が得られる情報量は多く、有用性は高いといえます。

―― PADの薬物療法と運動療法は、どのようにされていますか。

渋谷 間歇性跛行を呈する場合は、受診した時点で薬物療法が行われていなければ、すぐに薬物療法を始めます。もちろん、ABIの測定などで虚血の存在が診断された後です。同時に運動療法も指導します。監視下の運動療法は現実的には行いにくいので、指導だけになります。具体的には「足の痛みが出るまでの運動を繰り返して続けてください。薬を飲みながら2~4週間続けましょう」と指導しています。また、禁煙の指導も徹底し、「これで改善すれば積極的治療を受けないで済むかもしれません」と、治療に対するアドヒアランスとモチベーションを高めています。

―― 薬物治療では、どの薬剤を選択されるのでしょうか。

渋谷 PADの診療ガイドラインであるTASC IIでは、エビデンスのあるシロスタゾールを第一選択薬として推奨していますし、われわれの感触でもシロスタゾールはわりと切れ味がいいと思えますので、ほとんどの患者さんにシロスタゾールを処方しています。

―― バイパス術や血管内治療などの積極的治療は、どのような症例を対象としていますか。

渋谷 運動療法と薬物療法で改善がみられたら、そのまま継続しますが、改善がみられないケースや、さらに悪化してFontaine分類でII度aからII度bになって日常生活に支障がでた場合は、代償できない虚血と判断して積極的治療を考慮します。またFontaine分類でIII度からIV度(重症虚血肢)は積極的治療を第一選択とします。

 積極的治療としては、バイパス術あるいは血栓内膜摘除術という外科的血管形成術と、経皮的なステント留置術などの血管内治療を行っています。

 腸骨動脈領域では、ステント留置術の有効性が確立しており、3年、5年の開存率はバイパス術と同等になっていますので、侵襲の少ない血管内治療を第一選択にしてよいと考えています。血管内治療で対応しにくい病変は外科的治療の対象となります。

 一方、大腿動脈や膝上の膝窩動脈に対する血管内治療は、短い限局性病変ではある程度の効果が期待できますが、長い閉塞病変や複数箇所の閉塞病変に対しては、バイパス術の方が効果的です。また総大腿動脈や大腿膝窩動脈の屈曲部位に対する血管内治療(特にステント留置術)は禁忌です。

 下腿領域では一部で血管内治療が試みられていますが、満足な結果は得られていません。現在のところ下腿病変に対しては外科的治療が第一選択です。

 まとめると、腸骨動脈領域は血管内治療を第一選択に、下腿領域は外科的治療を第一選択にということで大筋での合意は得られると思います。大腿膝窩動脈領域における血管内治療と外科的治療の選択は、「侵襲は低いが効果がやや不安定・不確実な治療を選択するか、侵襲は大きいけど効果も大きい治療を選択するか」ということになります。したがって、個々の患者さんの目標とする生活レベル、病態を考慮して、バランスよい決断が求められます(表1)。

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