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Anti Thrombotic Therapy.2016

【末梢動脈疾患 エキスパートインタビュー】
PADから全身の動脈疾患を探していくスタンスで
春日井市民病院 血管内治療センター部長 大場泰洋氏

2009/08/19

春日井市民病院血管内治療センター部長の大場泰洋氏

 PAD末梢動脈疾患)は、それ自体が深刻な障害をもたらすだけでなく、冠動脈疾患脳血管障害を高率に合併し、QOLや生命予後にも大きな影響を与える。そこで、春日井市民病院血管内治療センター部長の大場泰洋氏(写真)にPAD患者の動向、診断や薬物療法、血管内治療の実際についてうかがった(日経メディカル別冊)。

―― こちらの病院での、下肢のPAD患者さんの動向や特徴についてお聞かせください。

大場 PADの患者さんは、年々増加傾向にあり、冷感あるいは足の裏がおかしいといった感覚異常や、歩くと足が痛くなる跛行肢の症状で受診する患者さんが多くいます。また、最近では紹介で受診される患者さんも増えてきました。春日井市では、2005年から現在までにPADに関連した市民公開講座を3回行い、跛行肢に関しても啓発活動を行ってきましたので、そうした取り組みの成果が現れてきているのを感じます。

 当院で診ているPAD患者さんは70歳代が中心です。欧米の論文では、PAD患者さんの約6割は冠動脈疾患、約4割は脳血管障害を合併しているとされていますが、当院でもほぼ同様の印象を持っています。ただ、冠動脈疾患や脳血管障害がある場合、跛行症状が出る前に息苦しくなる、あるいは麻痺のために運動量が少なくなるといった理由から、PADの症状は現れにくくなります。

 循環器科では、冠動脈疾患の診断造影の際にPADも診るという形になりますが、われわれ血管外科の立場としては、PADを診断したら、その患者さんに冠動脈疾患、脳血管障害、糖尿病、高脂血症などがないかどうかを判断し、必要があれば各専門科に依頼する、すなわちPADから全身の動脈疾患を探していくというスタンスで診ています。

―― PADの診断は、どのように行っているのでしょうか。

大場 外来では、問診、触診、視診、聴診を行い、必要な人には血管検査室(Vascular Labo)での検査も行います。血管検査室は2004年に設置され、形態的検査として超音波診断、また機能的検査としてトレッドミル負荷による血圧測定、ABIの測定などを行っています。これらの検査はすべて被爆などのない無侵襲検査です。

 血管検査室での検査結果が出た段階で、ほとんどの場合は診断がつきますが、さらに詳しく診る必要がある場合は、マルチスライスCT検査を行います。これは造影剤と放射線が使われるため侵襲検査になりますが、主に治療方針を決めるための検査です。

 また、診断に際して注意が必要なのは、跛行を症状とする患者さんの約6割は腰椎に原因があることです。これらの患者さんは整形外科に紹介します。ただし、PADと腰部脊柱管狭窄症を合併している患者さんも全体の約15%いますから、両疾患の可能性を常に念頭に置いて診ています。

―― 次に運動療法や薬物療法の実際について、お聞かせください。

大場 運動療法に関しては、監視下で行うことが重要だと考えています。例えばドイツなどでは、モニターをしっかりつけて、ランプの点灯によって表示されるスピードに合わせて運動するというような方法が、体育館のような施設で行われています。日本でも国立循環器病センターなどでは、そうした方法がとられているようですが、運動療法の専門施設は少ないのが実状です。PADの患者さんは冠動脈疾患を合併している方が多いため、運動中に心臓に問題が起きた場合など、取り返しのつかない状況に陥ることも考えられます。ですから、現状では非監視下での運動を安易に勧めることはできないと思っています。

 歩行にしても、「前回これだけ歩いたから、次はこれくらいの範囲にしましょう」というように、計画を立てて長く続けられるように指導することが重要です。残念ながら、まだ日本では運動療法が十分に行える環境は整っていないと言えます。

 薬物療法に関しては、TASC IIにも記載されていますが、間歇性跛行の患者さんには最低3カ月から半年間は内服治療を行います。それで症状が改善した場合は薬物療法を継続するのが基本です。症状が改善しない場合は、次の介入治療あるいは薬剤の変更を考慮します。

 間歇性跛行の治療薬としては、TASC IIでも第1選択薬として推奨されているシロスタゾールを使っています。頭痛、心悸亢進が現れる場合は、用量を200mg/日から100mg/日に変更して1カ月ぐらい続け、忍容性が改善されれば、また200mg/日に戻すようにしています。病変部位が大腿動脈領域以下の場合は、血管内治療やバイパス手術による治療は難しいのですが、こうした薬物療法や運動療法によって症状の改善が認められる方は、かなりいるという印象があります。

 シロスタゾールは抗血小板作用に加えて、血管拡張作用を併せ持つ点が非常に評価できると思います。さらに、いろいろな多面的作用が明らかになってきていますので、今後、われわれも高脂血症患者や糖尿病患者を対象に、FMD(血流依存性血管拡張)検査でシロスタゾールの血管内皮機能に対する作用を評価したいと考えています。

―― PADの血管内治療では、どのような方針をとられているのでしょうか。

大場 腸骨動脈領域に関しては、ステント留置による血管内治療を積極的に行うことが多くなっています。TASC IIでは、腸骨動脈病変を閉塞の程度や長さからA型、B型、C型、D型に分類していますが、当院では、いずれの病変であってもほとんど血管内治療を行います。開存率が非常に良好で、バイパス手術とほぼ同じ成果が得られているからです。また、PADの患者さんは心筋梗塞などの冠動脈疾患を発症する危険性がありますので、血管内治療によって腸骨動脈を拡張しておくと、発症した場合に、治療のためのアクセスルートが確保されていることになります。

 例えば、片側で大動脈内バルーンパンピングが行われ、もう一方の側からカテーテルを挿入しようとして、狭窄があるために入らないということになった場合、緊急ですから、その時点で血管内治療を行うことは難しくなります。こうした場合、腸骨動脈を拡張しておくことで患者さんが受ける恩恵は非常に大きいものがあります。このような観点からも、腸骨動脈領域の病変に関しては、積極的な治療を行う方が良いと考えています。

 一方、大腿動脈領域以下に関しては、薬物療法で症状の改善が認められない場合に、血管内治療あるいはバイパス手術を考慮します。大腿動脈領域の血管内治療は、どうしてもステントを使用せざるを得ない場合を除き、原則的にバルーン拡張のみというスタンスで行っています。

―― 血管内治療前後の抗血小板療法は、どのようにされているのでしょうか。

大場 PADの治療は、全身の動脈硬化の一部分症を治療しただけと考えています。ですから、抗血小板療法は可能な限り継続します。第1選択薬はシロスタゾールにしており、血管内治療の前後で変更することはありません。また、関西労災病院の飯田修先生らが、大腿膝窩動脈領域に血管内治療を施行されたPAD患者を対象に行った検討では、シロスタゾール投与により再狭窄が抑制されることを報告していますので、それが1つのエビデンスだと考えています(図1)。

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