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Anti Thrombotic Therapy.2016

【末梢動脈疾患 エキスパートインタビュー】
慢性腎臓病(CKD)はPADの重要な危険因子である
倉敷中央病院 腎臓内科部長 島田典明氏

2009/05/08

倉敷中央病院の島田典明氏

 血液透析患者約3万例を対象とした国際的前向き観察研究DOPPSthe Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)の報告をみると、透析患者の25.3%に末梢動脈疾患PAD)が認められている(日本人では11.5%)。近年、腎障害動脈硬化性疾患の重要な危険因子であることが明らかになっているが、動脈硬化性疾患の一部分症であるPADにとっても腎障害は重要な危険因子であり、PADが高率に腎障害に合併することも知られている。また、糖尿病性腎症や透析患者では高率に石灰化を伴うため、バイパス術ができずに肢切断を余儀なくされる患者も多い。したがって、慢性腎臓病CKD)を含む腎障害あるいは透析患者に対するPADのスクリーニングは非常に重要になっている。そこで、腎臓内科医である倉敷中央病院島田典明氏に、PADの早期発見の重要性についてうかがった(日経メディカル別冊)。

―― 腎臓内科医がPADに注目する背景について教えてください。

島田 近年、CKDという新しい疾患概念が注目されています。CKDとは、腎障害を示す所見や腎機能低下が慢性的に続く状態で、透析患者の予備軍としてだけでなく、心血管イベントの独立した危険因子であることが、大規模疫学調査の結果から明らかになっています。つまり、CKDは全身の動脈硬化の進展に関与しており、その意味ではPADの危険因子でもあります。

 実際、PADの診療ガイドラインであるTASCIIでは、腎不全はPADの危険因子とされ、高血圧や脂質異常症と同等以上の相対危険度があることが示されています。

 CKD症例において、PADの発症リスクが高いことを明らかにしたのは、大規模前向き試験であるARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)試験です。すなわち、非PADの被験者1万4280例を試験開始時のeGFRに基づいて3群に分けて追跡したところ、年間のPAD発症率は、腎機能正常群(eGFR≧90mL/分/1.73m2、n=6825)は0.47%、軽度の腎機能低下群(eGFRが60~89mL/分/1.73m2、n=7079)は0.49%に対して、CKD群(eGFRが15~59mL/分/1.73m2、n=376)では0.86%と高値でした。さらに人口特性および循環器系危険因子で補正すると、CKD群におけるPADの発症率は、腎機能正常群の1.5倍でした(Wattanakit,K.et al.:J.Am.Soc.Nephrol.2007;18;629-636)。

 また、PADとCKDは相加的に死亡率を上げることが、昨年報告されています(Liew,Y.P.et al.:Clin.J.Am.Soc.Nephrol.2008;3;1084-1089)。したがって、CKD患者さんを診察する際には、心血管疾患と共にPADのスクリーニングを行うことが、非常に重要なのです。

 従来、私たち腎臓内科医は、患者さんが末期腎不全あるいは透析導入にならないことを治療目標としてきました。しかし近年、透析導入に至る前に、動脈硬化性疾患によるイベントが起こることが明らかになり、腎症に対する治療目標は変化し、動脈硬化性疾患の一部分症であるPADにも注目するようになったのです。

―― 次に、PADのスクリーニングの実際についてお話しください

島田 実際の診療にあたっては、まず、肢の冷感、しびれ感、間歇性跛行の有無などの自覚症状について聞きます。しかし、ADLが低く、あまり歩いていない高齢者は、間歇性跛行を自覚していない方がかなりいます。また、「歩くとしんどい」といった、聞き逃してしまいそうな漠然とした表現をなさる方もいますので、その点には注意が必要です。

 最も避けなければならないのは、自覚症状がないままに動脈硬化病変が進展して、FontaineIII度以上になってから診断されることです。そこで、PADの危険因子をもっている方には、理学的所見をとることが必要になります。下肢の浮腫の有無を診る際には、足背動脈も触るようにしています。しかし、健康な方でも約3割の方が、足背動脈の拍動が触れないと言われていますので、触れない時には後脛骨動脈を触知し、拍動が良好か、左右差はないかを診ます。

 問診や触診、視診でPADが疑われる場合は、ABI(足関節上腕血圧比)検査を行います。しかし、糖尿病や長期透析患者さんは、中膜の石灰化(Mönckeberg型動脈硬化)を合併していることが多く、血圧以上の圧で駆血しても血管壁が変形しにくいため、血圧が実際より高く測定され、ABIが高値(1.4以上)になることがあります。こうした症例では、PWV(脈波伝播速度)が非常に速いことも特徴です。ABIやPWVの値が異常に高い場合は、TBI(足趾上腕血圧比)が有用と言われています。

―― PADのスクリーニングで注意すべき点は、どのようなことでしょうか

島田 整形外科領域の疾患である脊柱管狭窄症(LCS)との鑑別も重要ですが、近年注目されているのは、blue toe syndromeと呼ばれるコレステロール塞栓症(CCE)との鑑別診断です。

 CCEとは、大血管の粥腫崩壊に伴うコレステロール栓子によって血管閉塞や内皮障害が起こり、そこに炎症細胞が浸潤して諸臓器に塞栓が生じ、全身の臓器不全を来たす疾患です。主に、カテーテル血管操作、大動脈瘤手術、抗凝固療法が誘因となり起こります。特に近年、高齢化や観血的血管操作の増加に伴ってCCEが増加していると言われています。

 CCEの予後は不良で、足趾病変は急速に悪化して壊疽に至る例もあります(図1)。CCEの確定診断には、皮膚、腎、眼底などの組織におけるコレステロール栓子の存在を証明することが必要ですが、病変が不均一に分布するため、多くの場合、臨床像から診断せざるを得ません。すなわち、blue toeあるいは網状皮斑(図2)、末梢血の好酸球増多、CRP陽性、急速な腎機能の低下、などから早期に診断し、治療を開始することが大切です。

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