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反射的に「とろみ水」を使っていませんか?

2019/12/12

 寒さも本格的になってきました。皆様の現場でも、インフルエンザなどで体調を崩されたのをきっかけに、誤嚥性肺炎を発症する方が増えてくる時期です。誤嚥性肺炎の患者さんに水を飲みたいと言われたら、反射的に「とろみ水」を使っているかもしれません。では、なぜそうしているのでしょうか?

 水分は口や喉でばらけやすく、誤嚥をしやすい性質があります。とろみ(増粘剤)を加えると、まとまった状態で喉を通るようになります。とろみのある水分をスプーンから落としてみると、飛び散りにくいことが分かるでしょう。

 また、喉を通る時の速度を落とすことにも一役買っています。私たちがものを飲み込む瞬間、空気の通り道である喉頭が閉じ、食物の通り道である食道入口部が開くために、嚥下ができるのです。喉頭が閉じるのが一瞬でも遅ければ、喉頭侵入や誤嚥をしてしまうでしょう。また食道入口部が開くのが遅ければ、飲んだはずのものが喉に残り、のちに誤嚥してしまうかもしれません。とろみをつけることにより、加齢や疾患により緩慢になった咽喉頭でも、嚥下の一連の動作が間に合いやすくなります。

 では、とろみを濃くすればするほど、安全なのでしょうか? 液体の粘度が高くなれば喉頭侵入や誤嚥は減りますが、一方で固形に近づくことで送り込みにくくなり残留が増えてしまう送りことも分かっています。口腔内から咽頭、食道へと送り込むために舌の運動能、咽頭収縮力、食道入口部の開大がより必要になります。これらが十分でないと、口腔内や咽頭の残留が増えてしまうのです。

 一方で、とろみを嫌う患者さんも少なくありません。ある研究では、水分にとろみをつけるよう指示された患者さんのうち、自宅でも指示を守っていたのはわずか40%程度だったと報告されています(Shim JM, Ann Rehabil Med, 2013)。指示が守られていたとしても、美味しくないために摂取量が減り、脱水や低栄養の原因になっている例はよく見受けます。

(イラスト:Yurika Hirano)

著者プロフィール

吉松 由貴(よしまつ ゆき)氏。大阪大学卒。淀川キリスト教病院での初期研修、同院呼吸器内科での後期研修を経て、現職は飯塚病院呼吸器内科勤務。現職の間、浜松市リハビリテーション病院、聖隷浜松病院で摂食嚥下に関して国内留学。日本摂食嚥下リハビリテーション学会評議員。バルセロナ自治大学嚥下障害修士課程を卒業。兵庫医科大学 研究生(生理学講座、生体機能部門)。Twitterは@yukiy0105。

連載の紹介

吉松由貴の「誤嚥性肺炎、診療の知恵袋」
誤嚥性肺炎は、すんなりと治る病気ではありません。繰り返したり、命に関わることも多いのです。そんな誤嚥性肺炎の診療に、若手医師が日々どのような姿勢で挑んでいるのかを具体例を交えながらつづります。

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