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35歳男性。右陰嚢の激痛で救急搬送
清掃中に生じた精巣痛の原因は?

2016/12/08
山中克郎(諏訪中央病院総合診療科)

ミニレクチャーを行う佐藤泰吾総合診療科部長(左)

 諏訪中央病院総合診療科部長の佐藤泰吾先生が、コナン・ドイルの『緋色の研究』(延原謙訳)を引用しながら、分析的に推理することの大切さを講義してくれた。

ホームズ 「いつかも話したとおり、異常な事がらというものは手がかりにこそなれ、決して障害になるものじゃない。こうした事件を解くにあたって大切なのは、過去にさかのぼって逆に推理しうるかどうかだ。これはきわめて有効な方法で、しかも習得しやすいことなんだが、世間じゃあんまり活用する人はない。日常生活のうえでは、未来へ推理を働かすほうが役に立つから、逆推理のほうは自然なおざりにされるんだね。総合的推理のできる人五十人にたいして、分析的推理のできる人はせいぜいひとりくらいのものだろう」

ワトソン 「どうもはっきりのみこめない」

突然精巣痛を発症した35歳男性
 では実際、臨床現場では分析的推理をどう生かせばいいのだろうか。臨床医はどのように考えるべきか。

 例えば、ある日の夜。救急隊からのホットラインが鳴った。

 「35歳男性です。清掃中に突然、精巣痛を発症しました。激痛なので搬送します」 

 生来元気な35歳男性、主訴は右陰嚢痛である。清掃の仕事をしていたら、19時ごろ突然右陰嚢から右下腹部にかけての激しい痛みと嘔気が出現し、20時に諏訪中央病院の救急外来を受診した。来院時には痛みは違和感程度に軽減していた。既往歴は特になく、内服薬やアレルギーもない。

 OPQRSTを用いて痛みの問診を行う。
O(onset):突然の発症
P(palliative/provocative factor):安静や体動での変化なし
Q(quality):引きつれる様な持続痛
R(region):右下腹部にかけて広がる痛み
S(severity):人生最大の痛み
T(time course):清掃中に発症、救急車に乗ってから改善

 バイタルサインは体温37.0℃、血圧111/58mmHg、心拍数72回/分 整、SpO295%(室内気)。意識は清明であった。診察では頭頸部と胸部に異常はなかった。腹部は平坦、軟で腸蠕動音は正常、右下腹部に圧痛があった。陰嚢は腫大なし、圧痛なし。挙睾筋反射は認められた。皮膚に異常はなかった。

 さて、どのように分析的に推理することができるだろうか。

 まず、解剖を復習しよう。

著者プロフィール

山中克郎(諏訪中央病院院長補佐)●やまなか かつお氏。1985年名古屋大卒。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)一般内科、名古屋医療センター総合診療科、藤田保健衛生大学救急総合内科などを経て、2014年12月から現職。

連載の紹介

山中克郎の「八ヶ岳から吹く風」
総合診療医として唯一やり残したと感じる「地域医療」に取り組むため、諏訪中央病院に移った山中氏。「地域医療」や「地域での教育」によって日本の医療に貢献するという新たなチャレンジの日々を、八ヶ岳山麓で見つけた自然や人々との関わりとともに綴る。

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