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祝・連載400回! 市民の救命処置を考える
脈が触れても触れなくても胸骨圧迫してほしい

2022/06/23
薬師寺 泰匡(薬師寺慈恵病院院長)

 先日、転院の紹介を受けた時のこと。バイタルは落ち着いているということだったので、悠長に構えていました。そして、いざ搬入。呼びかけても返答がありません。何となく下顎呼吸だなぁと思いましたが、脈が触れにくいし、僕の指がおかしくなっちゃたのかな、夢でも見ているのかなと自分の中の正常化バイアスと戦うこと数秒、事態を把握します。まさかの搬入時心停止です。

 「正常化バイアス」は、生きる上では重要なシステムです。これは、不測の事態に見舞われたとき、「あり得へん」という先入観から、起こっていることは不測の事態ではなく、正常の範囲内のことだと自動的に処理されてしまうメカニズムを指します。救急では全て起こり得ることとして様々な対策をしていますし、災害医療ではそうした傾向がより強くなります。しかし、救急外来にいる自分の中にも正常化バイアスが存在することを思い知らされた瞬間でした。

 モニター装着もそこそこに、「これ胸骨圧迫すべき状況だよな」と自分に言い聞かせながら胸骨圧迫を開始し、他のスタッフを呼ぶよう看護師に声かけをしました。そこから仲間が駆けつけて、型のごとく二次救命処置が開始されました。心肺蘇生は通常業務としてくり返し経験しているはずですし、自分が第一発見者になることも何度も経験しているのですが、それでも胸骨圧迫を開始するまでには数秒間のちゅうちょが生まれてしまいます。そういうものなのです。

著者プロフィール

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)●やくしじひろまさ氏。富山大学卒。岸和田徳洲会病院(岸徳)での初期研修を経て救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸徳の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年から薬師寺慈恵病院に職場を移し、2021年1月からは院長として地方二次救急病院の発展を目指している。週1回岡山大学の高度救命救急センターに出入りし、ますます救急にのめり込んでいる。

連載の紹介

薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」
ER×ICUで1人盛り上がる救急医。愉快な仲間達と日本一明るい救命センターを目指して日々奮闘し、「ER診療の楽しさ」の伝承にも力を入れています。出会った患者のエピソードや面白かったエビデンス、ERを離れた救急医の日常までを綴ります。

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