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「救急車を呼んでおいて搬送拒否」はありなのか

2019/05/30
薬師寺 泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)

 最近、モラルハザードという言葉をよく聞きます。モラルハザードはそもそも経済の世界で言うプリンシパル=エージェント問題(依頼人=代理人問題)です。他人(代理人)の行動が観察されないことから生じる諸問題を指します。情報の非対称性がある状況で、代理人が何らかの隠された行動を起こし、資源配分が妨げられる現象をモラルハザードと呼ぶのです。

 例えば、医師が不必要な治療や検査を患者に行い、診療報酬が増えてしまうような現象はモラルハザードです。患者は検査が必要なのかどうかを判断することができません。また、救急車を受けても断っても給与が同じという環境で、医師が救急車を断り続けるような現象もモラルハザードです。救急車をこっそり断っても、誰にも分からないからです(ただし当院は大阪府の救急搬送支援システムを導入しておりますので、いつどんな要請があって、受けたのか断ったのかということが全て記録されています)。

 保険の世界でもモラルハザードという言葉が用いられています。これは保険金が支払われるという安心感から加入者の健康管理がおろそかになり、保険金の支払いが増加するというような現象を指します。あえてルールを破りに行くような行為は、本来モラルハザードではありません。が、最近はあえてルールを破りに行く行為もモラルハザードと呼ばれています。道徳の崩壊という解釈ですね。

著者プロフィール

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院)●やくしじひろまさ氏。富山大学卒。岸和田徳洲会病院(岸徳)での初期研修を経て救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸徳の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年からいきなり管理職。地方二次救急病院で診療しながら、岡山大学の高度救命救急センターでますます救急にのめり込んでいる。

連載の紹介

薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」
ER×ICUで1人盛り上がる救急医。愉快な仲間達と日本一明るい救命センターを目指して日々奮闘し、「ER診療の楽しさ」の伝承にも力を入れています。出会った患者のエピソードや面白かったエビデンス、ERを離れた救急医の日常までを綴ります。

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