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抗精神病薬服用中はアドレナリンが使えない!?

2018/09/06
薬師寺 泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)

 みなさん、夏も終わりですね。うちの子どもたちも夏休みを終えて、それぞれの教育機関に通い始めました。思い返せば夏休みらしいことをあまりできなかったなと、少し寂しい気持ちになったので、今回は今更ですが夏休み特別企画です。

 夏休みといえば、NHKラジオでは毎年おなじみ「夏休み子ども科学電話相談」が開催されていました。子どもの頃はよくお世話になっておりました。これにちなんで、今回は読者の方からいただいた疑問にお答えする形でコラムをお送りしたいと思います。ご質問は、「抗精神病薬を投与中の患者にはアドレナリンが効かないんですか?」というものです。この質問を一緒に考えてみましょう。

恋のカテコラミンリリース
 アドレナリンはカテコラミンの一種です。カテコール+アミンということで、カテコール(フェノール類の一種で、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基を持つ)とアミン(アンモニアの水素部分が何らかの炭化水素基に置換された物質)の構造を持つものをこのように呼んでいます。

 体内ではチロシンからレボドパが産生され、ドパミンに変換されます。またドパミンからノルアドレナリンやアドレナリンに変換され合成されています。ご存知の通りアドレナリンは交感神経が興奮していると産生される物質で、外敵から身を守ったり、獲物を捕食したりといった、戦いの準備をする反応、ストレス応答反応を全身の器官に引き起こします(カテコラミンリリース)。

 カテコラミンにより頻脈で胸はドキドキ、毛は逆立ち、瞳孔は開きます。恋をしたときもカテコラミンが放出されているに違いないと僕は信じているので、これを恋のカテコラミンリリースと勝手に呼んでいます。

アドレナリンの使用用途
 アドレナリンは救急の場においては切っても切れない薬品として重要です。例えば、心停止の際にはどんな波形であっても最終的には強心作用を期待してアドレナリンの適応がありますし、アナフィラキシーショックの際にはいち早くアドレナリンの投与を行うことが予後改善につながります。以前は心停止時に心腔内へ直接投与することも検討されることがあったようですが、近年それは推奨されていません。最新作が大好評上映中のミッションインポッシブルの3作目で、トム・クルーズが心腔内にアドレナリンを注射するシーンがありますが、すげぇなと思いながら眺めていました。

 なお、ザ・ロックでニコラス・ケイジが心腔内に注射したのはアドレナリンではなくアトロピンです。あれで助かるのか?などと僕に聞かないでください。何も考えずに見られるいい映画だと思います。ともかく、アドレナリンは救命のために非常に重要な薬剤です。

蘇生時にアドレナリンを使えない?
 非常に重要だと思うアドレナリンなのですが、実は使うことができないシーンがあるとされていました。それが、「抗精神病薬服用中」の場合です。

 抗精神病薬の使用中には、「アドレナリン反転」と呼ばれる反応があるとされてきました。アドレナリン反転とは、α1受容体拮抗薬投与後にアドレナリンを投与すると、期待されるアドレナリンの血圧上昇作用とは逆に血圧下降作用に反転する現象のことを指します。端的に申し上げますと、抗精神病薬服用中にアドレナリンを使用すると血圧が下がるかもしれないということです。

 この現象を理解するために、まずアドレナリンの作用をおさらいしましょう。アドレナリンは、交感神経受容体を刺激して心血管作動薬として効果を発揮します。この交感神経受容体にはαとβの2種類があり、それぞれα1、α2、β1、β2、β3などとサブタイプがあります。

 アドレナリンはこのうちのα1、β1、β2を刺激します。α1受容体刺激は細動脈平滑筋収縮作用を持ち、体血管抵抗を上げることで血圧上昇に寄与し、β1受容体刺激は心収縮力増加(陽性変力)作用と心拍数増加(陽性変時)作用を持ちます。一方、β2受容体刺激は細動脈平滑筋弛緩と静脈平滑筋弛緩作用を持ち、体血管抵抗を下げることで血圧低下に寄与し、さらに気管支平滑筋弛緩作用も持っています。α1受容体とβ2受容体の作用は矛盾していますね。

著者プロフィール

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院)●やくしじひろまさ氏。富山大学卒。岸和田徳洲会病院(岸徳)での初期研修を経て救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸徳の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年からいきなり管理職。地方二次救急病院で診療しながら、岡山大学の高度救命救急センターでますます救急にのめり込んでいる。

連載の紹介

薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」
ER×ICUで1人盛り上がる救急医。愉快な仲間達と日本一明るい救命センターを目指して日々奮闘し、「ER診療の楽しさ」の伝承にも力を入れています。出会った患者のエピソードや面白かったエビデンス、ERを離れた救急医の日常までを綴ります。

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