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誰でも勇者になれる時代は終わるのか

2016/05/19
薬師寺泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)

 今回の内容は初期研修医向けになるかもしれません。今、初期研修2年次の人たちからは、後期研修が大きく変わります。「専門医を取るための過程が後期研修」みたいな漠然とした定義が刷新され、後期研修の目的が明確化されました。

 例えば、現状の救急専門医であれば、兼任でもいいので最低3年間は救急業務に携わり、必要な症例や手技を身に付けて筆記試験に合格すれば認められるものでした。4年掛けても5年掛けてもOKで、途中で外科やったり内科やったりしてもOKでした。しかし来年度からは、必ず3年間はその道に従事し、決められたカリキュラムに従って様々な施設で研鑽を積み、最終学年で専門医試験を受験して合格しなければ専門医として認められないということになったのです。これは救急科に限らず、他のどの診療科でも同じです。

 そして、専門医によっては、基本領域として指定された専門医を取得していないと研修すらできないようになります。例えば、心臓血管外科であれば外科専門医を、消化器内科専門医であれば内科専門医を取得していないと専門研修が行えず、専門医になれません。集中治療専門医は救急か小児か麻酔に従事し、その専門医資格を取得しておかないとなりません。ドラゴンクエスト6※注の職業システムみたいな感じですね。

※注:ご存知、大人気ゲームソフトのドラゴンクエストシリーズ6作目。ドラゴンクエスト3で好評だった職業システムを発展させて採用。戦士や魔法使い、僧侶などの職業を選択して経験を積み、それぞれの職業をマスターすることで上級職につくことができる。例えば、魔法使いと僧侶をマスターすると賢者となれる。さらに、いくつかの上級職をマスターすると勇者にもなれる。職業選択の機会均等という意味では画期的なシステムで、パーティ全体が勇者という、ラスボスからしたら恐怖の軍団を作成することも可能となった。誰でも勇者になれるので勇者のありがたみが減ってしまったことは否めないが…。ただ研鑽を積めば誰でも勇者になれるという事実は多くの少年少女に勇気を与え、その1人である僕は今でもベホマズンを使えるようになりたいと日々経験を積んでいる。

専門医の育成問題にとどまらず、偏在問題まで丸抱え
 これだけならまだ分かりやすいのですが、この新専門医制度は今問題になっている医師の偏在の問題、診療科の偏在の問題も解決しようとしてきました。国民が信頼できる専門医をどうやって育てるかということと、医師偏在の問題や診療科を選択する自由の問題は別枠な気がしますが、まるっと1つの制度で抱え込んでいるので大変なことになっているのです。

 この後期研修の専門研修プログラムは、専門研修基幹施設と呼ばれる研修プログラムを作成して研修医を募集する医療機関を核として、複数の専門研修連携施設が集まって専門研修施設群を作成します。プログラムごとに定員が決まっており、プログラム数や定員は地域ごとにある程度限定されています。自分がやりたい診療科領域のプログラムの定員がオーバーしていたら、その地域で専門研修を受けることはできないわけですね。

 例えば、大阪で救急をやりたいと思っても、大阪の救急科領域専門研修プログラムの定員がいっぱいだったら、他の地域に行くか、どうしても大阪で研修したかったら他科を選択するかということになります。さらに、他の地域に行っても当該科のプログラムの定員がいっぱいだったら、その診療科領域は諦めなければならないかもしれません。誰でも勇者になることはできないということです。

 この新専門医制度のプログラムは、初期研修のようなマッチング制度をとっていないので、一次募集で第一希望に落ちたら、二次募集で残った枠のどこかに応募することになります。というわけで、初期研修医の皆さんは、知らないところで既に競争が始まってしまっているのです…。

 初期研修医も大変ですが、受け入れる病院も大変です。研修医から選ばれる病院作りはもちろん、教育体制を整えなくてはなりません。そして、○○科の専門医研修として魅力的なプログラムを作らなければ、その科の研修医がいなくなってしまいます。各診療科は自分の診療科の魅力を対外的にアピールすることが求められています。

著者プロフィール

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院)●やくしじひろまさ氏。富山大学卒。岸和田徳洲会病院(岸徳)での初期研修を経て救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸徳の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年からいきなり管理職。地方二次救急病院で診療しながら、岡山大学の高度救命救急センターでますます救急にのめり込んでいる。

連載の紹介

薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」
ER×ICUで1人盛り上がる救急医。愉快な仲間達と日本一明るい救命センターを目指して日々奮闘し、「ER診療の楽しさ」の伝承にも力を入れています。出会った患者のエピソードや面白かったエビデンス、ERを離れた救急医の日常までを綴ります。

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