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勇気凜々!有機リン!!~PAMを使う?使わない?~

2015/08/20
薬師寺泰匡(岸和田徳洲会病院救命救急センター)

 ちょっと前の話になりますが、7月に和歌山で開催された日本中毒学会学術集会に参加してきました。今年の中毒学会はいろんなテーマでpro&conをやっており、中毒診療のエキスパートたちが、いまだ統一された答えのない様々なテーマについて議論を交わしました。僕はこの企画を本当に楽しみにしていて、実際に参加してとても勉強になりました。今回はそんなpro&conセッションのまとめを中心に、有機リン中毒の話をしようと思います。

 有機リン系農薬(マラチオン[商品名マラソン]、フェニトロチオン[スミチオン]など)は、農薬というだけあって本来は殺虫剤として使用します。ただこれが虫だけに特異的に働くのであれば苦労はしないのですが、人間にも作用してしまいます。作用機序は、赤血球膜のアセチルコリンエステラーゼや血漿のブチリル コリンエステラーゼを阻害し、神経シナプスでのアセチルコリン濃度を高めるというものです。

 後者の阻害は臨床症状を起こしませんが、前者のアセチルコリンエステラーゼ 阻害によって、アセチルコリンが分解されずに過剰となってしまうと、自律神経や中枢神経、神経筋接合部でアセチルコリン受容体が過剰刺激を受けて様々な症状が出てきます。

 大まかに書くと、ムスカリン様受容体刺激の結果、とにかくいろんなところから液体が漏れます(流涎、流涙、気管支分泌過多、尿および便失禁、嘔吐)。ほかにも、気管支収縮、縮瞳が見られたり、徐脈、心臓の伝導障害、低血圧を起こしたりします。また中枢神経症状として不安、興奮、錯乱、けいれん、呼吸失調や人格障害も起こるとされています。神経筋接合部の作用では筋繊維性束性攣縮、けいれん、筋力低下を起こします。

 診断は症状と特有の臭いからつくことが多いです(自殺企図によるものも多いので、たまに自白によって診断…)。その他有機リン系農薬検出キットなどがありますが、置いてある病院はなかなかないと思います。

 そこで、一般的にはアセチルコリンエステラーゼの活性を見るのが良いとされております。アセチルコリンエステラーゼ活性が正常値の30%程度あれば筋力は保たれるようですが、10%以下となった場合に大幅な筋力低下が起こるので大量のアトロピンが必要になるといわれており、治療方針の指針にもなります。しかし、病院でよく測定されているのはコリンエステラーゼです。アセチルコリンエステラーゼはおそらく外注になるでしょうから、これもなかなか難しい話になってきます。やはり、目の前の患者の症状から判断して治療していく必要があります。

著者プロフィール

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院)●やくしじひろまさ氏。富山大学卒。岸和田徳洲会病院(岸徳)での初期研修を経て救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸徳の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年からいきなり管理職。地方二次救急病院で診療しながら、岡山大学の高度救命救急センターでますます救急にのめり込んでいる。

連載の紹介

薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」
ER×ICUで1人盛り上がる救急医。愉快な仲間達と日本一明るい救命センターを目指して日々奮闘し、「ER診療の楽しさ」の伝承にも力を入れています。出会った患者のエピソードや面白かったエビデンス、ERを離れた救急医の日常までを綴ります。

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