
健康を是とする病院の中でも、患者がタバコを吸える場所が二つだけ存在する。
精神科閉鎖病棟と緩和ケア病棟の片隅だ。
今はどうなのか知らないが、私が精神科の修行をしていた時代の精神科閉鎖病棟には喫煙室が存在した。酒や他の違法薬物に依存するよりはタバコに依存していたほうが、まだ精神的な悪影響は少ないかららしい。喫煙室の壁は真っ茶色に染まっていて、もともと他の病室と同じ白い壁だったことが信じられなかった。
ホスピスでは庭の片隅に灰皿があった。使われる頻度はそう多くなかったが、月に一人くらいは灰皿のまえで車椅子に座ってタバコを吸っている患者がいた。緩和ケア病棟では五年後の健康被害よりも、今この瞬間の楽しみが優先されるので、喫煙も正義である。