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線香と花と空想科学読本と

2019/06/14
テクノ アサヤマ(緩和ケア医)

 先日、友人に料理教室に誘われた。料理教室なのだからエプロンを持っていかなければ、とタンスの奥の方を探したが、見つからない。以前はここにエプロンをしまっていたはずだが、幾度とない引っ越しとそれに伴う断捨離を繰り返しているうちになくしてしまったようだ。物にはあまり愛着がなく、物を捨てられなくて困るなんてことはない私だが、そのエプロンを大切にとっておかなかったことに関しては強烈に後悔した。あのエプロンはなくしてはいけなかった。それは、小学校の家庭科の授業で作ったエプロンだった。二十歳で亡くなった同級生が、縫うのを手伝ってくれたエプロンだ。

 小中学校の同級生だったAは歴史やSFが好きで、よくエジプトのピラミッドの特徴を語っていた。階段ピラミッドや屈折ピラミッドなど、各ピラミッドの違いを聞かれた私が答えられないでいると彼はニヤニヤと私をバカにした。一方で彼の得意な「チンパンジーの拍手」というモノマネを見せてきたり、彼の愛読書である空想科学読本を貸してもらったり、小学校の狭い狭いコミュニティの中では割と話の合う仲だった。

 Aとは出席番号が近かったので実習や実験のときはだいたい同じ班だった。ある日家庭科で、以後の調理実習で使用するエプロンを作る課題が出た。大判の布をミシンで縫わなければならないが、私はミシン縫いが苦手だった。下糸を巻くのがまず面倒だし、糸を溝に通して穴から出してなどという複雑な構造に、頭がパンクして耳から煙が出そうになる。苦労してボビンに糸を巻いて、額に汗をかきながら上糸と下糸を通し、さあ縫い始めようと布をセットしたら、糸がからまって針が止まった。途方に暮れて隣の席を見てみると、Aはもうエプロン自体を縫い終わってポケットを付ける段階に移行していた。私はAに助けを求めた。

 「ねえ、なんか私のミシン、全然縫えないんだけど、ちょっと見てもらってもいい?」

 Aは手を止めて私のミシンを見て、絡まった糸を切った。彼が改めて布をセットしてスイッチを踏むと、まるでさっきまでの絡まりが嘘のようにスイスイと縫い目が進んでいく。

 「別に大丈夫みたいだよ」
 「あれ、すごいね。ありがとう」

 五センチくらい縫ってもらったところで再度私に手を変えた。するとどうしたことでしょう。直前までスムーズに縫えていた糸がまた絡まる。

 「ごめん、やっぱりまたダメみたい」
 「ええ、何で」

著者プロフィール

緩和ケア医。「生と死を見つめる」をライフワークに、僻地に緩和ケアを導入するためIターン。音楽と読書が欠かせない生活。愛車はワーゲン。ペンネームの由来は、Daft Punkの名曲「TECHNOLOGIC」。Twitterは@technoasym

連載の紹介

テクノ アサヤマの「今日がいちばんいい日」
緩和ケア医・テクノアサヤマが僻地にやってきた!僻地医療、それは日本の中の異文化交流。違う人間である「わたし」と「あなた」はどうやって生きていけばいい?悩めるあなたとわたしのストーリー。

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